障害者が起業の際に知っておくべき融資制度とは?
最近では、障害をお持ちの方の中にも起業を志す方が増えてきました。しかし、起業にあたって大きな問題となるのが資金の調達です。
しかし、たとえ障害があっても、事業のプランがシッカリしており、かつそれを実行できる準備の出来る方であれば、問題なく借入れをすることができます。
この記事では、障害者の方が利用できる融資や申込みの流れ、しんさのポイントについて解説いたします。
障害者の方でも利用できる融資制度
障害者の方でも利用できる公的な融資制度としては、次のようなものがあります。
新規開業資金
「新規開業資金」は、新たに事業を始める方または事業開始後7年以内の方が利用できる融資制度です。
特別な条件がないため、多くの方に利用されています。
- 資金の使いみち 起業時または起業後の設備資金・運転資金
- 融資限度額 7,200万円(うち運転資金4,800万円)
- 返済期間 設備資金 20年以内<うち据置期間2年以内>
運転資金 7年以内<うち据置期間2年以内>
- 利率(年) 基準利率 1.07~2.35%
女性、若者/シニア起業家支援資金
女性または35歳未満か55歳以上の方であって、 新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方が利用できる融資制度です。
通常の融資よりもやや金利が優遇されます。
- 資金の使いみち 新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする資金
- 融資限度額 7,200万円(うち運転資金4,800万円)
- 利率(年) 1.67~2.35%
- 返済期間 設備資金 20年以内<うち据置期間2年以内>
運転資金 7年以内<うち据置期間2年以内>
新創業融資制度
無担保無保証で創業融資を利用したいという方向けの融資制度です。
利用にあたっては、一定の条件があります。
- 対象者の要件 次のすべての要件に該当する方
- 新たに事業を始める方または事開始後税務申告を2期終えて
いないこと
- 新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終え
ていない場合は、創業時において創業資金総額の10分の1以
上の自己資金を確認できること
- 資金の使いみち 新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする資金
- 融資限度額 3,000万円(うち運転資金1,500万円)
- 返済期間 各融資制度に定めるご返済期間以内
- 利率(年) 2.37~3.05%
- 担保・保証人 原則不要。なお、法人で借り入れをする場合には、代表者個人
に責任が及びません。
自治体の制度融資
「制度融資」とは、自治体(都道府県や市町村)と金融機関、信用保証協会の3者が共同して、中小企業の融資を受けやすくするための仕組みです。
信用保証協会が公的な保証をするため、保証人のいない企業でも有利な条件で融資を利用できます。
制度融資には、都道府県と市町村のそれぞれが行うものがありますが、これらは同時に併用することはできません。
(例えば、東京都新宿区の企業の場合、東京都制度融資または新宿区制度融資のどちらか一方のみを利用できます。)
なお、制度融資は、各自治体が独自に行う制度となっています、そのため、各都道府県や市区町村ごとで融資の条件に大きな違いがあります。
年金担保貸付制度
年金担保貸付制度は、独立行政法人福祉医療機構で実施している年金を担保にした融資制度です。
ただし、この年金担保貸付制度は、令和4年3月末で申込受付を終了することが決定しているので利用にあたってはご注意ください。
- 対象者の要件 以下の年金証書を所持し、現在、その年金を受給している方
国民年金・厚生年金保険年金証書、国民年金証書、厚生年金保険
年金証書、船員保険年金証書、労働者災害補償保険年金証書
資金の使いみち 生業を営むために必要な経費(事業に係る運転資金 資材・原材
料仕入費等)
融資限度額 次の3つの要件を満たす額の範囲内
① 10万円~200万円の範囲内であること
② 受給している年金の0.8倍以内(年額)であること
③ 1回あたりの定額返済額の15倍以内であること
- 利率(年) 2.8% ※ 令和4年3月現在
担保・保証人 連帯保証人が必要
障害者の方が融資を受けやすくするには?
障害者であることを強調しない
日本政策金融公庫に限らず、一般的な金融機関では、障害者であっても健常者の方と同様に扱い融資をします。
そのため、事業計画書や面談おいて、障害者であるということを強調しても、メリットがないだけでなくデメリットとなります。
そのため、事業プランの説明や事業計画書の作成の際には、あくまでも「一事業者としてどのように事業を成功させるのか」や、「資金繰りに問題がない」ということに重点をおいて説明するようにしましょう。
しかし、事業計画の作成において、障害者であることの独自の視点やプランを入れた工夫をすることなどは問題ありません。
融資NG項目をなくす
融資の審査においては、「これがあるとNG」というものがいくつかあります。
もし、このうちの一つでも該当するものがある場合には、融資を受けることが難しくなるため、これらの項目のうち該当するものがないかを事前に確認しておくことが必要となります。
<融資NGの事例>
- 代表者等の個人の信用情報に問題がある
- 税金の滞納がある。
- 公共料金や家賃などの滞納や支払遅延が多数ある
- 事業経験がほとんどない。または、極端に少ない
- 事業計画の内容が不十分
- 風俗営業などを事業の目的としている
十分な自己資金を準備する
日本政策金融公庫の新創業融資制度では、原則、1/10以上の自己資金があることが必要となります。
「自己資金」とは、融資の申し込みの際に必要となる元手を意味します。
自己資金が大きいほど、大きな額の融資を申し込めるだけでなく、審査における評価がよくなります。
しかし、一部には、自己資金と認められないものもあるため、何が自己資金になって、何がならないのかという基準を理解しておくことも重要となります。
<自己資金になるものの例>
- コツコツ貯めた預貯金
- 親などから贈与された資金
- 相続で得たお金、退職金など
<自己資金にならないものの例>
- 他から借りたお金
- タンス預金
- 出どころが節女手出来ない資金
事業計画書の審査のポイントと流れ、必要期間
以下では、起業融資で必要となる事業計画書の審査のポイントや手続きの流れ、融資の必要期間について説明します。
事業計画書のポイント
事業計画書の作成では、次のような点が審査のポイントとなります。
そのため、これらの審査項目に沿った事業計画書を作成することが融資成功のポイントとなります。
- 求められている最低限の要件(自己資金や経験年数など)を満たしているか?
- 必要な項目をすべて記載し、かつその内容に一貫性があるか?
- 創業への熱意が感じられる内容となっているか?
- 収支計画の内容が、融資の可能なものとなっているか?(融資返済の可否など)
- 数字に根拠や妥当性があるか?また、それらを裏付ける資料があるか?
日本政策金融公庫の「融資手続きの流れ」
日本政策金融公庫の融資の申し込みから融資までの流れは、以下のとおりとなります。
申込む融資の種類を決める
日本政策金融公庫では、多種の融資制度を取り扱っており、また、その内容もそれぞれ異なるため、自分の状況にあった融資制度を選択するようにしましょう。
創業者の方については、新創業融資制度を利用すると融資を無担保無保証で利用できます。
もし、融資制度に詳しくない場合には専門家や公庫の窓口で相談することをおすすめします。
提出書類を準備する
融資の申し込みの際に必要となる書類には、事業計画書、収支計画書、設備資金の見積書、決算書、企業概要などがありますが、作成や準備に時間がかかるものもあるため早めに準備するようにしましょう。
融資の申し込み手続きを行う
日本政策金融公庫の融資の申し込みは、直接、管轄の支店に出向いて申し込む他、インターネットでも行うことができます。
(この場合、書類は別途に郵送します)申込みの仕方などに疑問点や不安がある場合には、管轄の公庫の支店にご確認ください。
面談での質疑応答対策を行う
日本政策金融公庫の融資では、審査の一環として担当者との面談が行われます。
面談で聞かれる内容は、事業に関する基本的なことですが、いきなりではうまく答えられない可能性もあるため、事前に質問を想定したり、ロールプレイなどをしておくと効果的です。
融資の契約を行う
面談が行われてから約7~10日後に、日本政策金融公庫で融資に関する「金銭消費貸借」を締結します。
資金が入金される
融資契約の完了後、5~7日程度で資金が指定の口座へ振り込まれます。
日本政策金融公庫の審査期間
通常、創業融資の場合は、申し込みから融資が出るまでに1~1.5ヶ月程度の時間がかかりますが、2回目以降の申し込みの場合には2~3週間程度で融資が出るのが一般的です。
なお、ここであげた期間には事業計画書の作成の時間を含みませんので、事業計画書の作成になれていない方は、さらに1ヶ月程の余裕を見込んでおいた方が安全です。
融資以外の資金調達方法も検討する
事業をするにあたっては、融資以外の資金調達の方法についても知っておくと、より幅広い調達が可能となります。
出資者を募る
企業が法人の場合には、関係者から出資を募るという方法で資金調達することが可能です。
出資は返済義務がないだけでなく、資本金の増加にもつながります。
また、個人事業の場合には、法人成りをすることで出資を集めることができます。
手持ち資産の売却による現金化
不動産や株式などの有価証券を所有している場合には、これを売却することより、手持ちの資金を増やすことができます。
ただし、不動産の売却にはある程度の時間がかかる、株式については売却のタイミングで価格が変動するなどのリスクがあることに気をつけてください。
家族などからの資金提供
家族からの贈与なども有効な資金調達の方法です。
しかし、資金の贈与ではなく、借入れである場合には、貸借対照表に負債として乗せなければならない、創業融資時の自己資金とすることができないなどに注意が必要です。
生命保険の解約
生命保険に加入している場合には、それを解約して得られる解約返却金で資金の調達をすることが可能です。
しかし、中には返却金のない保険もあり、また、年数によっては返却金がほとんどない場合もあるため、解約前に返却額を確認しておきましょう。
クラウドファンディングを利用する
「クラウドファンディング」とは、インターネットを通じ経営の趣旨や考え方に賛同した人から資金を集める方法で、「Crowd(群衆)」と「Funding(資金調達)」が語源となっています。
通常、この方法では自社の商品やサービスを購入してもらい資金を集めますが、最近では出資タイプの支援なども行われています。
クラウドファンディングによる資金調達には、実際に行ってみないと調達額が確定できない(予想を大きく下回る可能性もある)というデメリットがありますが、募集を通じて見込み客を集めることができるといった特徴があります。
補助金・助成金を利用する
補助金は、国や地方自治体が一定の企業に対し、事業を行うために必要となる費用の一部を補助するものです。
なお、起業時の方でも利用できる補助金・助成金としては、次のようなものがあります。
- 小規模事業者持続化補助金
補助上限額50万円(単独申請) 補助率3分の2以内
- ものづくり補助金
補助上限額100万円〜1,000万円(通常枠)
補助率【通常枠】2分の1以内(小規模企業者・小規模事業者 3分の2)
[低感染リスク型ビジネス枠特別枠] 3分の2以内
- 子育て女性起業支援助成金
補助上限額200万円 補助率3分の1以内
- 東京都創業助成金
補助上限額100〜300万円 補助率3分の2以内
これらは返還不要の資金のため、獲得できた場合には大いに資金繰りに役立ちますが、はじめに補助事業に関する資金のすべてを立て替えなければならないということや、応募したすべての人がもらえるわけではない、資金が入金は事業の完了後(正確には、完了検査後)になることなどに注意する必要があります。
まとめ
障害者の方が起業の際に利用できる資金調達には、障害者だからとくに有利になるというものはありませんが、日本政策金融公庫の新創業融資制度や制度融資などを利用することができます。
しかし、希望額の融資を獲得するには、十分な事業計画書の作成や必要書類の準備などが必要となります。
なお、融資以外にも補助金やクラウドファンディングの活用などもできるため、できるだけ幅広くチャレンジしましょう。
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