創業計画書「7必要な資金と調達方法」の書き方のコツと審査に通る事例を紹介

日本政策金融公庫の創業計画の中でも、とくに「必要な資金と調達方法」の書き方や数字の作り方がわからないという方が少なくありません。

その理由としては、あまりなじみのない形式であることや、表の左右で金額のバランスをとらなければならないことなどがその一因となっています。

この記事では「必要な資金と調達方法」の書き方のコツや審査に効果のあるポイントについて事例付きで紹介します。

「必要な資金と調達方法」なぜ必要?公庫が見ているポイントとは?

創業計画書の「必要な資金と調達方法」では、「何のために資金を使うのか?」や、「どこからその資金を用意するのか?」が見られる箇所です。

しかしそれだけでなく、本当にそれが事業に必要な設備や経費なのかということや、自己資金とのバランスなども審査の対象となります。

「必要な資金と調達方法」が必要なわけ

創業計画書を作る際に多くの方が悩むのが、おそらくこの「必要な資金と調達方法」ではないかと思います。

収支計画書が売上げから順番に経費を差し引いてゆけばよいのに対し、この表では左右に必要な項目を記入し、さらにその間で金額をバランスさせる必要があります。

そのため、簿記の勉強をしている方には比較的なじみがあるかと思いますが、そうでない方では混乱することも多いようです。

これらの内容は、収支計画からでもわからないわけではありませんが、収支計画だけの場合には次のような不都合が生じます。

〇 収支計画書では扱う経費等の項目が多くなるだけでなく、運転資金と設備資金の分類がされないことが多いため、これらをすぐに区別したり、それぞれの総額を把握することが難しくなる。

〇 創業計画では、使う資金と集める資金のバランスが取れていることが必要となるが、収支計画書だけでは、これらを項目ごとに拾い出して分類しないとその確認が難しい。

〇 創業計画では、自己資金額に対して借入れ希望額が多すぎる場合には、減額や融資否決の対象となるが、その判断のためにも「必要な資金と調達方法」の箇所は必要となる。

公庫がチェックする項目について

「必要な資金と調達方法」の欄には、開業時の設備・経費と借入れの状況を書き込みますが、公庫では、この表から次のようなことを読みとっています。

・運転資金と設備資金の具体的な内容と金額
・運転資金と設備資金のボリューム
・自己資金額
・借入予定額や自己資金額とのバランス
・その他の調達先の内容と金額

そのため、「必要な資金」と「調達方法」の欄の金額が一致していない場合や、自己資金として認められないものが計上されている場合、その他の調達先に問題がある場合などは、評価を低くする原因となります。

自己資金の内容に問題がある場合

たとえば、自己資金が500万円と計上されている場合でも、そのうちの200万円が見せ金的なものである場合には、その200万円は自己資金とは認められません。

そのため、表の中身も次のように変化することとなります。

<申込み時>

必要な資金金額調達の方法金額
設備資金店舗保証金

内装工事費

厨房設備

什器・備品

200万円

300万円

200万円

190万円

自己資金400万円
親等からの借入0円
公庫からの借入800万円
他の金融機関からの借入0円
運転資金仕入れ代

人件費

家賃・宣伝広告費

100万円

90万円

120万円

1,200万円1,200万円

 

<自己資金が▲200万円と判断された場合>

必要な資金金額調達の方法金額
 

設備

資金

店舗保証金

内装工事費

厨房設備

什器・備品

200万円

300万円

200万円

190万円

自己資金200万円
親等からの借入0円
公庫からの借入1,000万円
他の金融機関からの借入0円
運転

資金

仕入れ代

人件費

家賃・宣伝広告費

100万円

90万円

120万円

1,200万円1,200万円

上の表では自己資金と公庫借入額の比率は1:3となりますが、下の修正後のケースでは実質的な比率が1:5となってしまいます。

一般的に融資が受けやすいのは、自己資金額の3倍程度とされていますが、自己資金の実質額が▲200万円となった下の表のケースでは自己資金の5倍の融資が必要となるため、その後の返済負担が大きく増すこととなります。

したがって、このようなケースでは、希望額(1,000万円)の借入れは難しくなる可能性が高いといえます。

このように形だけ体裁を作って表を埋めたとしても、実質的な内容が伴っていない場合には融資が難しくなることに注意が必要です。

「必要な資金と調達方法」欄の記入方法

「必要な資金と調達方法」欄では、左側には「資金を事業の何に使うのか?」(資金の支予定)、右側には「必要な資金をどうやって集めるのか?」(資金の調達の方法)を、それぞれ記入します。

ただし、この際に右側(調達の方法)と左側(必要な資金欄)の合計金額は、必ず一致させるようにします。

記載のポイントについて

「必要な資金(左側)」について

◆ この欄には、事業に使う予定の運転資金と設備資金の内訳と金額を記入します。
◆ 設備資金は、有効な見積書の金額の通りに記入し、その見積書を添付します。
◆ 運転資金は、営業当初にかかる仕入れ・人件費・宣伝広告費等を見積もって記入します。

「調達の方法欄(右側)」について

◆ 「自己資金」には、事業に使うために用意した預金他の金額を記入します。
◆ 「親・兄弟等からの借り入れ」には、それらからの借り入れがある場合に記入します。
ただし、この借りたお金は、自己資金とは認められないので注意。
◆ 「日本政策金融公庫からの借り入れ」には、今回の借入れ希望額を記載します。
もし、制度融資や他の銀行からの借入れも利用する場合には「他の金融機関からの借入れ」欄にその金額を記入します。

各項目ごとの記入について

設備資金について

必要な資金見積先金額
 

設備

資金

店舗保証金

内装工事費

厨房設備

什器・備品

A社見積りの通り

B社見積りの通り

C社見積りの通り

D社見積りの通り

200万円

300万円

200万円

150万円

この欄には、今回の事業で購入を予定している「設備」の名称と金額を記入します。設備と運転資金のどちらに振り分けるべきか悩むときには、基本的には減価償却ができる資産は設備にすると判断すればほぼ間違いがありません。

また、設備資金については、その設備に関する「見積り書」を添付しますが、ここで記入する金額は見積書の額を参考に記載します。

見積書には有効期限が設定されていることが多いため、その期限内のものを使用しててください。

金額が小さく見積書がとりにくいもの(少額の備品や消耗品など)については、その内容と金額が記載されたインターネットのページをプリントしたものをつける他、その商品が掲載されているURLを付記しておく方法でも構いません。

なお、注意すべきこととしては、前払いした保証金や礼金などのように融資申込前に支払った費用については「融資申込みの対象とならない」ということです。

すでに支払った設備や経費の資金は、前払いしたものとして自己資金の一部とすることはできますが、融資の対象にはならないため、この表に記入しないこととなります。

運転資金について

必要な資金金  額
運転

当初仕入れ代

その後の仕入れ代(@300千円/月×2)

家賃(@200千円/月×3)

パート給与(@150千円/月×3)

宣伝広告費(内訳については、別途明細を参照)

光熱費および通信費(@100千円/月×3)

旅費交通費(@100千円/月×2)

その他雑費(@100千円/月×2)

 

100万円

60万円

60万円

45万円

85万円

30万円

20万円

20万円

 

合      計  (A)1,200万円

運転資金とは、事業に使用する商品の仕入、経費の支払いなど通常の業務で必要となる資金のことをいいますが、ここでは設備資金以外のものぐらいの理解で構いません。

経費の内訳については具体的な使い道を記入するだけでなく、単価と何ヶ月分なのかも記入すると親切となります。また、内訳が複雑な場合には、その経費についての内訳を別途に作り表示するとわかりやすくなります。(上表の宣伝広告など)

仕入れ代については、開業当初に用意するものと、開業後に補充するものとでは内容や数量が異なるため、項目を分けておいた方がよいでしょう。

家賃については、添付資料として賃貸契約書を提出するため、必ず契約書の金額と一致させるようにします。また、事業で使用するテナントの賃貸契約では、使用目的が「事務所」や「住居兼事務所」となっていることが必要となります。

とくに自宅で開業する方については、この部分が「住居用」となっていないかに注意してください。

従業員やパートの給料については、それぞれの見込み額の単価と人数を記入しますが、フォーマットの「4取引先・取引関係等」の人件費の支払い部分との食い違いが出ないようにしましょう。

なお、法人の場合には代表者の報酬を経費として計上することができますが、個人事業では、事業主の給料を経費として計上することができないのが原則です。

なぜなら、個人事業の場合の事業主の給与は、最終的な利益から支払うこととなるからです。(経費扱いとならない)

したがって、個人事業主の給料については、この襴の人件費としても記入(計上)しないことに注意が必要です。

また、運転資金については、計上した額のすべてを融資対象としてみてもらえるわけではありません。通常は3〜4ヶ月分程度が融資の出やすい目安とされます。

調達の方法 ・合計欄について

調達の方法金  額
自 己 資 金500万円
親・兄弟等からの借入れ
※父 元金20千円×50回(無利息)
100万円
日本政策金融公庫からの借入れ
※元金10万円×70回(年○%)
600万円
他の金融機関等からの借入
(内訳・返済方法)
合      計  (B)1,200万円

「自己資金」には、自分がコツコツ貯めた預貯金や親などから贈与された資金、退職金、相続で得た資金などが該当します。

ただし、自己資金として認められるのは、あくまでも「親等からもらったお金」です。
それが借りたものである場合には、表の「親・兄弟等からの借入れ」の欄に、その額と毎月の返済額を記入します。

なお、自己資金の額については、預金通帳等の原本によって確認がされるため、正直に書きましょう。自己資金のうち「見せ金」と判断されるようなものについては、自己資金とは認められません。

 

もし、制度融資(信用保証協会の保証付き融資)など他の金融機関等からの借入れを予定している場合には、その金額と返済方法を所定の欄に記入します。

最後に、今回の融資申請額を記入例の振り合いで記載します。

この場合の合計金額(B)は、必ず表の左側の(A)の金額と一致させるようにします。

なお、社員とパートが混在していて単純な月数で内訳を出せない場合や、採用時期が異なる場合には、下表のように内訳をつけるとわかりやすく、また、評価にもつながりやすくなります。

人件費内訳

科  目1月2月3月
社員人件費0300千円300千円600千円
P/A人件費150千円150千円150千円450千円
150千円450千円450千円1,045千円

間違えのない「必要な資金と調達方法」欄の作り方

以上、「必要な資金と調達方法」欄の書き方についてご説明してきましたが、それでもやはりはじめてこの欄の記入をする方にとっては、難しく感じられる部分が多いと思います。そこでここでは、間違いのない記入の仕方と記入の際の注意点をご説明します。

「必要な資金と調達方法」欄の作り方

この欄の記入をする上で、よくありがちなミスとしては次のようなものがあります。

・どこから手を付けたらよいのかわからない
・左右の合計額が合わない
・自己資金と借入額のバランスが悪い

しかし、次の手順で作成すればこれらの問題を解消することができます。

① 一度すべての経費を洗い出してみる
② それぞれの内容に間違いないかを見積書や契約書、カタログ等でチェックする
③ これらを設備資金と運転資金のそれぞれに分類し、それぞれの合計を出して合算する(最終経費額)
④ 通帳の記載などから自己資金と認められる額を算出する
⑤ 親兄弟からの借入れを予定している場合には、その額も算定しておく。
⑥ ③の最終合計額から自己資金額と親兄弟からの借入額を差し引いた残りを公庫借入額として記入する。

この方法であれば、左右の金額が合わないということや、計算のやり直しで2度手間となることを防ぐことができます。

自己資金と借入額の差が大きい場合

なお、この作業をした場合に自己資金額と公庫借り入れ予定額との間に3倍もしくは4倍以上の開きが出る場合には、注意が必要です。

もし、この倍率以上の開きが出る場合には、希望額の融資の獲得が難しくなってしまう可能性が高くなるからです。

そのため、その場合には「自己資金額を増やす」または「経費額を少なくする」(つまり、計画全体のボリュームを小さくする)のいずれかにより、比率を1:3〜4倍以下におさめるようにすることをおすすめします。

自己資金を増やす方法

なお、「自己資金額を増やす方法」としては

・現物出資する
・出資を募る
・「みなし自己資金」※を活用する

などの方法があるため、利用できるものがないか検討してみてください。

※「みなし自己資金」
開業前に事業の準備資金として支払った資金。保証金、前家賃、仕入れ代の一部、備品などがこれに該当します。これらは融資申しみの対象とはすることができませんが、自己資金の一部として認めてもらうことができます。

たとえば、融資申込時点で自己資金となる通帳の残高が300万円しかない場合でも、この額が自己資金となるのではなく、もし、事前に保証金として200万円を支払っている場合には、これを足した500万円が自己資金となります。

なお、この場合には、次のような振り合いで補足説明をしておくとよいでしょう。
自己資金 500万円
※ うち200万円については、事業準備の先払い費用として支出済。

削られやすい設備や経費について

日本政策金融公庫の審査では、事業に必要がないもしくは関連性が低いとみられる設備や経費などは削除されるため、結果としてその分、融資金額が減額となります。

事業に不要または関連性が低いとみられると見られやすいものとしては、次のようなものがあります。

・集客や製造等への貢献度が低いもの

・それがなくとも営業に差し支えない設備や備品

・効果のわからない宣伝広告費

・6ヶ月分など、具体的な根拠なく期間の長い経費(仕入れ代や給与、家賃など)

このような設備や経費は減額の原因となるだけでなく、審査側の印象も悪くする要因となります。

したがって、この欄で設備や経費を計上する場合には、面談などで聞かれてもその根拠と妥当性を説明できるものだけにしましょう。

まとめ

日本政策金融公庫の創業計画の記載では、「必要な資金と調達方法」の書き方に悩まれる方が少なくありません。しかし、この箇所では「事業にどのようなものを必要としているのか?」や、「どこからその資金を集めるのか?」を伝えるだけでなく、その内容の妥当性や自己資金とのバランスにも配慮する必要があります。とくに事業と関連の薄い経費については、削減される対象となりやすいため、精査して計上するようにしましょう。