法人化の相談は、誰にどんなことを聞けばよい? 信頼できる相談先や相談すべき項目を詳細に解説!

法人化をする際にはいろいろな不安や疑問が生じますが、そのときの相談のポイントとして重要なのが「誰に」、「何を聞くか」ということです。単に「個人事業とどちらが得か?」ということだけでなく、登記手続きや融資などについても正確な情報を知っておく必要があります。そのため、聞く相手を選ぶだけでなく、聞くべきことをしっかりと精査しておくことも重要となります。この記事では、信頼できる相談先の選び方や法人化のために必要な相談のポイントについて解説いたします。

法人化の相談ができる先にはどんなところがある?

法人化に関する問題を相談できる機関には、以下のようなものがあります。しかし、それぞれで得意分野が異なるため、相談の内容にあった機関を選ぶ必要があります。

また、法人化をする際には、「新規の事業で法人を立ちあげる」場合と「個人事業から法人に成る(法人成り)」の2つのパターンがありますが、それぞれで必要となるポイントが異なるため注意が必要です。

税理士

法人化をする際に、まず気になるのが「いつ、法人化すべきなのか?」や「どのくらい節税できるのか?」といった税務に関する疑問です。

このような疑問に対する身近な相談先として、はじめにあげられるのが「税理士」です。

税理士は、以下の分野について独占的に業務を行う権限を有しています。

・税務代理  依頼人を代理して、確定申告や税務調査の立会い、税務署の決定に対する不服申し立てなどを行う業務。
・税務書類の作成  税務申告における確定申告書、相続税申告書、青色申告承認申請書などの書類の作成や税務署への提出に関する業務。
・税務相談  税金や税務全般に関する相談を受け、助言する業務。

税金の問題は種類が多く、また範囲も広いため、一部の偏った知識では、正しい対応ができません。改正も頻繁に行われることから、最新の知識をもった方に相談することが重要となります。

そのため、税務が中心となる相談の場合には、信頼のおける税理士に依頼することがおすすめといえます。

なお、公認会計士は企業監査の専門家であり、主に大企業などの監査を行いますが、税務申告をするためには、税理士登録をしていることが必要となるため、税務申告の相談をするのであれば、税理士登録をしている方にお願いしましょう。

地元の商工会議所・商工会

商工会と商工会議所は、個人事業主や中小企業の経営相談や融資の斡旋、記帳指導のサポートなどを行っている団体で、法人化に関する相談も可能です。

商工会は、商工会法にもとづき設立された団体で、主に町や村を業務の管轄エリアとしているのに対して、商工会議所は商工会議所法にもとづき設立された団体で、主に市や区を管轄エリアとしているという違いがありますが、ほぼ同じ業務を行っています。

商工会等では、主に以下のような業務を行っています。

・ 経営相談
・ 創業支援
・ 日本政策金融公庫の融資の斡旋
・ 補助金助成金の申請支援
・ 経理の記帳指導
・ 確定申告の作成支援
・ その他経営全般に関する相談業務

商工会等には、各分野の専門家が在籍しているため専門性の高い相談にも対応しています。また、創業者向けのセミナーや勉強会なども数多く開催されているため、「具体的な相談の前に自分でも知識を身につけたい」という方にもおすすめです。

商工会等ではこのように各種の相談を行っていますが、相談を受けるためには会員となって一定の会費を支払う必要があります。

ミラサポ

ミラサポとは、中小企業事業者・小規模事業者に、中小企業支援施策(制度)を「知ってもらう」「使ってもらう」ことを目指し、制度をわかりやすく検索できる機能や、各制度の説明や申請方法を案内する、中小企業庁のweb相談窓口です。

各種手続きの申請方法や経営相談のサポートが可能な支援者・支援機関の紹介や相談のための検索機能を設けています。

ミラサポは中小企業庁の運営のため、簡単な手続きで正しい情報を無料で入手することができます。

ただし、補助金・助成金の支援や専門家によるコンサルティングなどを受ける場合には、「ミラサポ会員登録」または「企業情報登録」といった会員登録を行う必要があります。

税務署

税務署では納税に関する業務だけでなく、法人化に関する相談を行うこともできます。

具体的には、法人化のときには、法人設立届出書、青色申告の承認申請書などの届出が必要となりますが、これらの記載方法や作成についての相談をすることができます。

また、国税庁の「タックスアンサー」や「チャットボット」システムによる相談も可能です。

ただし、個別の事案に関する相談は受け付けてもらえないことがある他、相談には事前の予約が必要な場合もあるため、相談の際にはあらかじめ税務署にご確認ください。

その他専門家

弁護士・司法書士・行政書士・社会保険労務士等の士業では、それぞれの専門分野に関する相談への対応をしています。
また、各士業者が所属する団体(司法書士会、行政書士会など)でも定期的に無料相談を行っているので、これらを利用するのもよいでしょう。

なお、各士業が取り扱う専門分野は業種ごとに異なるため、正しい回答やアドバイスをもらうためには、その分野に関する専門家へいます。相談をする必要があります。

各士業の専門分野は、以下のとおりとなっています。

弁護士

弁護士は、法律関係の問題については、オールマイティに対応可能が可能です。

そのため、法的な処理が必要な場合や特殊な許認可が絡む法人の設立などに向いています。

ただし、弁護士によって取り扱う分野が異なるため、その分野に関する相談であることが必要となります。

例:合併や会社分割などによる法人設立、外為関連などの特殊な許可を必要とする法人設立

司法書士

不動産や法人登記の申請書類の作成・提出、供託、その他法務局へ提出する書類の作成代理などを行う他、法務大臣の認定を受けた司法書士については簡易裁判所における訴額140万円以下の訴訟の代理人となることができます。

法人設立手続きに関する相談には、最適といえます。

例:通常の法人設立手続き、役員変更手続きなど

行政書士

許認可などの官公署に提出する書類、契約書などの事実関係に関する書類の他、定款や議事録などといった事実証明に関する書類の作成などを行います。

そのため、法人設立時の定款や議事録の作成、許認可の取得に関する相談に適しています。

例:定款の作成、会社の構成に関するアドバイス、許認可取得など

社会保険労務士

社会保険関連の手続き、労使紛争の解決や斡旋手続き、雇用関連の補助金の手続き、給与計算代行などを行います。

法人設立時には各種の社会保険への加入が義務づけられていますが、これらの手続きの相談に最適といえます。

例:社会保険の加入申請手続きや、助成金の申請代理、就業規則の作成など

国・地方自治体等主催のセミナー等

国や地方自治体等では、以下のような取組みを行っているため、法人化の情報収集や人脈作りなどに役立ちます。

・ 起業に関するワンストップ相談窓口の設置
・ コワーキング施設の整備
・ 産業競争力強化法に基づく「創業支援等事業計画」の認定
・ ビジネスコンテストの開催 など

 

相談の際に聞いておくべき項目とポイント

間違いのない法人化をするには、誰に聞くかだけでなく、何を聞くかについても事前にポイントを絞っておくことが重要です。

どのくらいのタイミングで法人化すべきか?

法人化を検討する際に一番気になるのが、「利益がいくらくらいの時に法人化すべきか?」ということではないでしょうか?

一般的には、法人化による節税メリットが出るのは、利益が500~600万円以上になったタイミングとされています。そのため、利益額が少ない段階での法人設立は、思うような効果を得られない可能性があります。

また、法人化には多くのメリットがある反面、設立手続きのコスト負担や、決算・確定申告などの事務処理の増加といったデメリットもあるため、これらについても考えておく必要があります。

なお、実際にどのタイミングが妥当なのかについては、利益だけでなく会社の構成や売上高、従業員の数などによっても大きく変わるため、500~600万円というのはあくまで目安と考え、専門家に正確に査定してもらうようにしましょう。

法人化にはどんなメリットがあるのか?

法人化をした場合には、以下のようなメリットが考えられます

対外的な信用力が増える

一般的には、個人事業主よりも法人の方が、社会的な信用力が高いといえます。

そのため、取引きや融資においても、交渉や手続きを有利に進めやすく、事業拡大や売上げの拡大が期待できます

節税がしやすくなる

法人と個人では、税金のかかる範囲や仕組みが異なります。

たとえば、法人では「家族役員に給与を支払える」、「役員に退職金を支給できる」などの他、「10年間赤字の繰越欠損が使える」などといった優遇がありますが、個人事業では3年間しか認められていません。これらの違いから、法人の方が節税をしやすいといえます。

採用や人材確保がしやすくなる

法人化により、社会的信用力が増えるだけでなく、WEBサイトなどの情報発信力も高くなるため、より優秀な従業員の採用や確保をしやすくなります。

事業の承継がスムーズになる

個人で事業を行っている場合には、事業主本人が病気などで働けなくなると事業が途絶してしまいます。

しかし、法人化することで、事業主が業務を行えなくなった場合でも、代表者を変更することで事業を継続することができます。

許認可の承継がしやすい

個人事業において代表者の交代や相続があった場合には、原則として、事業の許認可を改めて取り直す必要があります。

そのため、このようなケースでは免許番号を更新することができず、対外的な信用を低下させる原因となりますが、法人の場合は、承継の手続きをすれば簡単に許認可を引き継ぐことができます。

会社で契約した生命保険料を経費にすることができる

個人事業の場合、生命保険料控除として所得控除が可能となるのは、一般の生命保険、介護保険、個人年金分を合わせて12万円が上限となります。

これに対して、会社が契約者かつ支払者となっている生命保険については、保険の種類にもよりますが、その支払額の全額や半額を経費とすることができます。

法人化のデメリットは何か?

法人化した場合には、メリットだけでなく以下のようなデメリットもあります。

法人化するために一定のコストや手間がかかる

会社を設立する場合には、次のような設立費用がかかります。

株式会社合同会社
登録免許税15万円〜6万円〜
定款認証代3万円~5万円 ※1不要
印紙税4万円 ※24万円 ※2

※1 令和4年1月1日から、定款認証料が変更となりました。
100万円未満 3万円  100万円以上未満 4万円  300万円以上 5万円
※2 電子定款で作成した場合には、印紙税は不要となります。

以上のように、設立登記には株式会社の場合は最低でも約18万円(電子定款でない場合はさらに4万円の加算)の費用がかかる他、手続きを専門家に依頼した場合にはさらにプラス数万円の報酬費用がかかります。

社会保険へ強制加入となるため保険料の負担が大きくなる。

個人事業主については、一部の社会保険の加入が免除されますが、法人の場合は、全員がすべての保険に加入しなければなりません。

社長が一人しかいない場合であっても、加入が義務となります。

また、従業員がいる場合には、その保険料や年金の半額以上(労災保険については全額)を負担する必要があるため、必然的に保険料負担が大きくなります。

帳簿の作成や申告手続きが複雑になる

個人事業では記帳する仕訳の数も少なく、申告手続きも簡単なケースが多いですが、会社の場合には、仕分け数が多くなる、複式簿記に基づいた帳簿を作成しなければならないなどから帳簿の作成や申告手続きが複雑になります。

また、これらの処理をするために税理士などの専門家に依頼する場合には、顧問料などのコストがかかることとなります。

交際費の損金算入が制限される

個人事業主では、交際費についての制限がありませんが、資本金1億円以下の法人の場合には、一事業年度における交際費の控除限度額は800万円までにとなります。

ただし、取引先との飲食代のうち、1人当たりの金額が5,000円以下のものについては、この制限がなくなります。

赤字でも法人住民税の均等割がかかる

個人事業では、赤字で課税所得がない場合には所得税や住民税がかかりませんが、法人の場合には、赤字であっても「法人住民税の均等割(都道府県分2万円、市町村分5万円の計7万円 ただし、都道府県により異なる)」を支払う必要があります。

消費税の免除について

消費税は2期前の所得状況にもとづいて課税される税金のため、個人事業主・法人を問わず、原則、この間については免除となります。

また、個人事業者が法人成りをした場合には、新会社が個人事業主の経歴を引き継ぐわけではないため、法人成りをしてからさらに要件を満たす場合には、さらに最大2年間の免税を受けることができます。

消費税の免除の要件は、以下のとおりとなります。

・1期目免除の要件
「設立した会社の資本金が1,000万円未満」であること

・2期目免除の要件
特定期間※の課税売上高が1,000万円以下であるか、もしくは特定期間の給与等支払額の合計額が1,000万円以下であること。
※「特定期間」とは、個人事業主の場合は1月1日から6月30日、法人の場合は判定する事業年度の前事業年度開始の日以後6カ月の期間を指します。

したがって、個人事業を始めて3期目に法人設立(法人成り)をすれば、最大で4期間分の消費税を節約できる可能性があります。

 

法人化のための手続きの流れ

新会社の構成づくり

新たに会社を設立する場合や個人事業主からの法人成りをする場合には、まずは、事前にどのような会社を作り、どのような構成にするかを決める必要があります。

その際には会社の種類(株式会社、合同会社、合名会社、合資会社)を選ぶだけでなく、「役員の数は何人にするのか?」、「取締役会や監査役は置くのか?」、「資本金をいくらにするのか?」などといった、会社の基本的な構成についても決定します。

会社設立の手続き

会社の構成が決まったら、発起人を選出して定款を作り、出資の払い込みを行います。

出資の払い込みが確認できたら登記申請書を作成し、管轄の法務局へ提出して、設立手続きを完了させます。

事業用の資産・負債の引き継ぎの手続き

法人成りの場合には、会社の設立登記後に、それまで個人事業主が所有していた資産と負債を新会社に引き継がせる手続きを行います。

なお、個人事業で使用していた在庫や設備、内装などを法人へ引き継ぐ場合、個人から法人に売却したという形をとりますが、これは個人事業の課税売上となるため、売上げが1,000万円を超える場合には消費税が発生することに注意が必要です。

会社口座の作成

法人の設立をした場合には、発起人の個人通帳に留保されている資本金を会社名義に移します。なお、これ以降、会社に関する入金や支払いはすべてこの口座で行います。

事務所、店舗、などの賃貸借契約の名義変更手続き

事務所、店舗などを借りて営業する場合は賃貸借契約の締結や、機器類のリースの切り替え手続きなどが必要となります。

借入金の処理

法人成りのケースで、個人事業の時の借入金等が残っている場合には、
・ そのまま個人名義で引き継ぐ
・ 会社名義に切り替える
のいずれかをしなければなりません。

いずれの場合についても、金融機関の協力や書類の手続きが必要となるため、あらかじめ金融機関の担当者に相談しておきましょう。

官公庁への届出書類など

会社設立の手続きが完了したら、管轄の税務署や年金事務所などに必要な届出書・申請書を提出します。

提出書類提出期限
法人設立届出書会社設立の日から2ヶ月以内
青色申告承認申請書会社設立の日から2ヶ月以内
給与支払事務所等の開設届出書従業員を雇用することになってから1カ月以内
法人設立届出書(都道府県)都道府県により異なる 目安:法人設立後15日〜1ヶ月以内
健康保険・厚生年金保険新規適用届」(年金事務所)会社設立から5日以内
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届(年金事務所)被保険者の資格所得(=入社日)後5日以内
労働保険関係成立届(労働基準監督署・ハローワーク)保険関係が成立した日の翌月から起算して10日以内

なお、法人成りの場合には、上記の届出の他に税務署へ「個人事業の廃業届出書」を提出することを忘れないようにしてください。

 

悪質な起業コンサルには注意!

法人の設立時には、これまでにしたことがない作業や手続きをすることが多いため、苦手なものについてはコンサルタントに相談や依頼をするというのも一つの手です。

しかし、コンサルタント選びは、事業の成否にも大きく影響するため、選任にあたっては以下の点に注意してください。

成功率や実績が過大なところには注意する

コンサルタントの中には、「成功率100%を謳っている」、「相談数が以上に多い」などのケースが見受けられますが、このようなコンサルについては注意してください。

なぜなら、「実績の数を水増ししている」、「捏造している」といったケースが少なくないからです。また、このようなコンサルタントは、能力的にも問題があることが少なくありません。

そのため、コンサルタントを選ぶときには、ホームページの記載や広告を安易に信用せず、「直接、確認してみる」、「評判を調べる」ことをおすすめします。

また、相談をするときには漫然と質問するのではなく、あらかじめ聞きたいことをリストアップし、それにもとづいて確認するようにすると聞き漏れがありません。

報酬は相談時に確認しておく      

コンサルタントには、相談を無料で行っているところと、有料のところがありますが、相談無料となっている場合でも、初回に限定しているところがほとんどです。

また、報酬についても、「着手金が必要なパターン」、「着手金と成功報酬の両方が必要なパターン」、「完全成功報酬のパターン」などがあるため、しっかりとその内容を把握し、疑問があるときにはその場で確認しておきましょう。

なお、コンサルタントを名乗る業者の中には、「違法な方法での融資のあっせん」や、「決算書の偽装(粉飾決算)」などを提案してくる悪質なところもありますが、このようなところにかかわるとトラブルに巻き込まれる可能性が高いため、十分に警戒してください。

相性を確認する

どんなに優秀なコンサルでも、性格的に合わない、言動が非常識などの場合には、気持ちよく依頼ができませんし、意思疎通が難しくなるといった問題が生じるため見送った方がよいでしょう。

無理に依頼をしても、その後、良好な関係を作ることが難しく、意見も対立しがちとなります。

まとめ

法人化をする場合には、税金や登記手続きだけでなく、組織のプラニングや融資などについても配慮する必要がありますが、専門的な分野については、自分だけで考えず専門機関や士業などに相談することをおすすめします。

なお、相談の際には、どんな相手に、何を聞くかということも重要となります。

相談の専門機関や士業には多くの種類がありますが、それぞれ得意とする分野や取り扱うことのできる範囲が決まっているので、あらかじめどんなことを相談できるのかを把握し、聞くべきことをまとめたうえで相談するようにしましょう。