そのまま使える!公庫創業計画書「1創業の動機・2経営者の略歴」の書き方と事例

公庫の創業計画書では、これまでの経験を中心にさまざまなことを記入しなければなりませんが、その中でも「創業の動機」の箇所は重要といえます。

なぜなら、公庫では開業の動機だけでなく、事業に対する考え方や準備具合を通じて、今後の事業の成否を予測としているからです。

そのため、この箇所の記載が不充分な場合には、審査での評価が弱いものとなってしまいます。

この記事では、具体的な事例や審査で評価されるためのポイントについて解説いたします。

「創業の動機」の記載で注意すべきポイントと納得させる記載例

公庫創業計画書の「創業の動機」の箇所では、事業に対する想いだけでなく、どんな準備をしてきたかということも重要です。

熱意だけを語った独りよがりの内容とならないように、シッカリと準備や根拠などに触れて、担当者の理解を引き出すようにしましょう。

創業の動機で「入れるべきこと」と「入れた方がよいこと」とは?

通常、創業の動機とは、「なぜ、その事業をする気になったのか?」や「きっかけは何か?」ということを意味しますが、創業計画書に記載する場合には、それだけでは少し不十分といえます。

できればこれらととともに、その事業についてどれだけの準備(場所・設備など)ができているかということや、その根拠なども盛り込むようにしましょう。

この箇所の記載では、よく熱意だけを前面に出してアピールする方がいますが、これはかえって逆効果となります。

もし熱意を伝えたいのであれば、それだけでなく「創業のためにどんなことをしてきたのか?」や、「なぜ、それができると思うのか?」についてもキチンと伝える必要があります。

なお、日本政策金融公庫の記載例では、単に物理的な準備が整ったから開業するという印象をうけますが、実際の計画ではこれだけでは内容が足りませんし、事業に対する想いも十分に伝わりません。

以上のポイントを取り入れて、しっかりとした文章を作成しましょう。

創業の動機欄の記入例

たとえば、飲食店を例とした創業の動機欄の記入例としては、次のようなものが参考になります。

 

私は大学を卒業後、平成○年に中央区銀座の老舗洋食屋○○に入社させていただきました。この店は独自の調理法とレシピで、約40年前の創業時から有名人が通う著名な店舗であり、この店へのあこがれが、私が料理人を目指すきっかけと今回の開業の原点となっています。

ここでは約11年間の業務の中で、料理人の基本的な考えや技術だけでなく、素材の選び方や接客方法の習得とともに、多くのお客様と知り会えたことが、私にとっての最高の財産となっております。

また、平成◯年には調理師免許を取得するとともに、簿記の勉強なども行い、今後の開業に努めてきました。

なお、取得予定の店舗(中央区◯◯町◯◯番)については、すでに大家様との交渉の上、保証金を支払い済みとなっています。

私は今回作る店舗においては、口コミの数をむやみに競うような店ではなく、「お客様の楽しみやくつろぎ」を第一に考え、「いただく料金以上の満足をしていただける」洋食店を目指したいと考えております。

 

「経営者の略歴」の記載で注意すべきポイントと記載例

経営者の略歴の箇所では
・これまでにしてきたごとの内容を丁寧に書く
・その経歴がいかに仕事に役立つかを説明する
ということがポイントとなります。

これまでにしてきた経験の内容を丁寧に書く

「経営者の略歴」の箇所において、これまでに行ってきた経験の内容を丁寧に書くというのは、最低限、守るべき原則です。

たまに「〇年〇月入社 〇〇部に配属」程度しか書かない方がいますが、このような書き方では具体的に何をして、どんなスキルが身についたのかがわかりません。

略歴では、自分がどんな業務について、そこで何を学び、それが今後の事業にどのように生かせるのかをわかりやすく書くようにしましょう。

その経歴がいかに仕事に役立つかを説明する

日本政策金融公庫の融資審査では、過去に同種・類似の事業経験があったかどうかということがとても重視されます。

その理由は、事業経験のある人の方が、ない人と比べて、間違いなく成功確率が高いからです。これは金融機関の側から見たときには、「失敗が少ない = 返済が滞るリスクが少ない」ということを意味します。

したがって、過去に事業経験がある場合には、ただ漫然とその内容を書くのでなく、別紙を使ってでもその内容を十分に説明し、いかにこれまでの経験が今回の事業に生きるのかということをアピールする必要があります。

これとは逆に、まったく経験がない中での開業となれば、審査がそれなりに厳しくなる覚悟も必要です。

けれど、このような場合でも、例えばどれだけその業界に関する勉強や調査をしてきたかをアピールするのも有効ですし、フランチャイズに参加してキチンとしたトレーニングを受ける場合には事業経験を補填するものとして認めてもらいやすくなります。

また、行った業務の内容や従事した期間によっては、アルバイトでも事業経験と認めてもらえる場合もあります。

例えば、花屋で創業したいと考えているが、それまでに花屋での勤務経験がなく、総務の仕事しかしたことがない方がいるとします。

この方には、花屋での実務経験はありませんが、総務での勤務で得られた接客や経理、コスト計算、集客力などのスキルはそのまま花屋の経営にも生かすことができます。

このように直接の業務経験はなくとも、経営に必要なスキルを持っているということをアピールすることにより、勤務経験が少ないというハンデをクリア-できる可能性があります。

なお、どの程度の事業経験があればよいかについては、日本政策金融公庫では7年程度を目安としていますが、実際には3年程度の期間でも満額融資を獲得することは可能です。

経営者の略歴の記入例

経営者の略歴の例としては、次のようなものがあります。

 

平成○年○月~平成○年○月
洋食屋〇〇入社(東京都港区新橋○-○-○)。主に調理、接客を担当。

平成○年○月~平成○年○月
主任コックとして上記の他に、原価計算、仕入れ、アルバイトの採用を担当。

平成○年○月~平成○年○月
ワインソムリエの資格を取得。ワインに合うメニュー開発に携わる。

平成○年○月~平成○年○月
新店店舗の料理長に就任。料理全般に関するオペレーションおよびメニュー開発に携わる。在職期間中の〇年に有名レストランガイドの一つ星の獲得に貢献した。

平成○年○月
開業準備のため、同社退店。

平成○年○月~平成○年○月
個人事業開業届を提出。予定候補地でのテナントの契約を完了。

平成○年○月
開業予定

 

なお、上記以外に『◯◯年に「日本料理コンクール和食部門において第2位を獲得」』や『〇年度社内企画コンペ優勝受賞』、『〇年度関東地区営業成績1位』などの受賞歴や褒章事項がある場合には、それについても積極的に記載するようにしましょう。

取得資格・知的財産権等の書き方について

この箇所には、取得している資格や知的財産権等を次のように記載します。

・普通運転免許 平成◯年◯月取得
・古物商免許  平成◯年◯月取得 №都◯◯◯

しかし、すべての方が何らかの資格を持っているわけではないため、ケースによっては「ここに何も書けるものがない」ということもあり得ます。

しかし、その場合でも、そのまま提出するのではなく、次のような工夫をすることで、空白を埋めることができるだけでなく、さらに評価をプラスにすることができます。

記事の掲載などでアピールする

もし、あなたが資格や知的財産権などをもっていない場合でも、過去に記事や雑誌に取り上げられたことがある場合には、それらにより自分の経歴をアピールすることができます。

たとえば、『◯◯年に◯◯新聞において「高い技術力を持つベンチャー企業◯◯選」のテーマで記事に掲載」』などがこれに該当します。

これらは公庫のフォーマットには入っていませんが、このような経歴がある場合には、評価の対象となります。また、この場合の記事は、全国紙でなく地方記事や専門雑誌のものでも構いません。

さらに、その事実が記載されたWEBページや記事のコピーを資料として添付すると、さらに効果的となります。

資格や許認可について

一部の業種では、事業をするにあたって必ずなくてはならない資格があります。

たとえば、飲食店における営業許可やリサイクル販売業における古物商許可などが、これに該当します。

これらは本来、融資の申込みの際に取得できている必要がありますが、中には営業許可のように融資申込時には準備が難しいものや、許可の申請はしていても審査期間中で、まだ、取得できていないというケースもあると思います。

このような場合には
「営業許可については、融資後に申請予定」
「◯◯許可については、令和◯年◯月に申請中。許可取得は令和◯年◯月見込み」
などと記載しておきます。

なお、営業をするにあたって必要な資格や許可が取れていない場合には、原則として、その取得が確認できるまで融資の振込手続きはされません。

また、必要な資格や許可が融資申込み時に取得できていなかったり、その準備をしていない場合には、審査でも悪いイメージを与えることとなります。

その他の注意点

開業届や法人設立登記は最低限、準備しよう!

融資の申込みをするときには、許認可以外にも最低限、開業届(個人・法人)や法人の設立登記手続き(法人)ができていることが必要となります。

開業届についてはそのコピー、法人設立については登記事項証明書が確認されますので、融資の申込みの時までには用意しておきましょう。

なお、日本政策金融公庫の案内では、開業前の方でも新創業融資制度を利用できることとなっていますが、実際の運用では開業届を提出していることや登記事項証明が取得できることが求められます。

賃貸契約書の中身に要注意!

資格や許認可ではありませんが、自宅がマンションやアパートの方がそこで事業をする場合には「賃貸借契約の中身」に注意が必要です。

通常、このようなケースでは、使用目的が「住居」となっている賃貸借契約を交わしていると思います。

しかし、このままでは自宅で事業をすることはできません。なぜなら、マンション等の自宅を事業に利用する場合には、契約書中の使用目的が「事務所」または「住居兼事務所」となっている必要があるからです。

またこれは、個人だけでなく、法人がマンション等を本店にしている場合にも、同様の問題が生じます。

この点については公庫の審査でもシッカリ確認されます。
そのため、使用目的が「住居」となっている場合には、建物オーナーの同意書または事務所使用が可能となる契約書の提出を求められます。

かなり多くのケースでこのような事例があるため、自宅がマンション等の方がそこで事業をする場合には、現在の契約の中身がどうなっているかを確認しておきましょう。

まとめ

日本政策金融公庫の創業計画書の「創業の動機」や「経営者の略歴」については、「なぜ、この事業を始めようとしたのか?」というきっかけや事業にかける熱意が見られる箇所です。

また、略歴や資格を通して「これまでどんな経験をしてきたのか?」や「どんなことができるのか?」ということが見られるため、とくに書くことがないからといって空白で提出するのではなく、コンクールの受賞や記事の掲載などの経歴を最大限に利用して記載するようにしましょう。