公庫創業計画書の「3取扱商品・サービス・セールスポイント」の書き方と満額融資のための記入事例

公庫の創業計画書の中で、多くの方が悩むのが「取扱商品やサービスなど」の箇所です。

そのわけは、これまで事業をしたことのない方にとって、具体的な相手が決まっていなかったり、自分の強みをどうやって表現したらよいかがわかりにくいからです。

しかし、この箇所は、事業をする上でもっとも重要な核となる部分のため、しっかりした情報を担当者に伝える必要があります。

この記事では、具体的な事例や審査で評価されるためのポイントについて解説いたします。

取扱商品・サービスについて

取扱商品やサービスでは、その内容からどのようなものを取り扱うのかだけでなく、「どのような強みがあるのか?」、「実際に実現可能なのか?」といったことを見られます。

そのため、その内容が実際の経営に役に立つものとなっているかがポイントとなります。

計画書の別紙の使用について

この箇所では、基本的には記載例のように取り扱う商品やサービス等の内容を記載しますが、公庫のフォーマットでは3行しか記入することができません。

しかし、これだけではボリューム的に十分でないだけでなく、具体的な内容を伝えることができません。そのため、できれば別紙に書くなどにより、しっかりとした記載をすることをおすすめします。

公庫では、創業計画書のフォーマットをA4一枚の用紙としてまとめていますが、別にこの用紙を必ず使わなくてはならないというわけではありませんし、記入する文字数については〇文字以内が望ましいという制約もありません。

必要な内容であれば長くなってもまったく問題ないわけです。

逆に、公庫の文例程度の内容では審査に悪影響ができるか、もしくは面談の際にあれこれと説明しなければなります。(過去にお客様で、公庫フォーマット程度の内容で提出されて、ダメだったという方がかなりいらっしゃいました)

ただし、別紙を使うときは、フォーマットに書かれた項目を落とさないようにしてください。

なお、担当者によっては、「一応、このフォーマットを提出してほしい」という指示があることもありますが、その場合にはフォーマットに氏名だけを記載して、具体的な内容については余白に「別紙のとおり」と記載することでも認められることとなっています。

取扱商品やサービスについて

取扱商品については、以下のポイントに注意して記入します。
① 客単価や一日の売上げがわかるよう、商品等の単価や見込み数量を記入する。
② 時間で営業内容が変わる場合には、それぞれについて詳細に記入する。
③ 収支計算の数字と内容を合わせる

客単価や一日の売上がわかるように、商品等の単価や見込み数量を記入する

ここでは公庫の記入例のように、商品やサービス等の単価や見込み数量を記入しますが、これだけではどの程度の売上げが立つのかがわかりません。

そのため、「見込みの客単価」や「一日の売上予測額」などについても記載しておいたほうがよりわかりやすくなります。

なお、「見込みの客単価」はおよその想定でも構いませんが、メニュー等がある場合には、その価格に合わせたものとすると、より信ぴょう性が高くなります。

したがって、メニューやカタログなどは、できるだけ作成して提出することをおすすめします。


・ドリンク平均単価 @600円
・副菜平均単価 @500円
・主宰平均単価 @700円
・お通し @300円

これまでの経験にもとづき一人当たりの平均注文数をドリンク3杯、副菜2品、主宰1.5品と想定していることから、客単価としては600円×3+500円×2+700円×1.5+300=4,150円と試算しています。
※ ドリンク、料理の単価については、別添メニューを参照。

時間で営業内容が変わる場合には、それぞれについて詳細に記入する

ランチとディナーとでは、客層や単価が大きく変わります。

また、これらの違いは売上げにも大きく影響するため、このように時間で営業内容が変わる場合には、それぞれの内容を詳細に記入するようにします。


<ランチ営業 11:30〜14:00>
ランチ3種 平均単価900円(ドリンク付) 見込み売上げシェア 23%
<ディナー営業 17:00〜24:00 ラストオーダー23:00>
平均単価4,150円 見込み売上げシェア 77%

収支計算の数字と内容を合わせる

この箇所で記入する商品の価格や客単価は、あとで記入する収支予定のベースの数字となるため、両者に食い違いがないように注意する必要があります。

なお、取扱商品やサービスの内容が複雑になるような場合には、「サービスの流れ」や「販売の仕組み」を別図としてまとめ、これを添付するなどすると、わかりやすく、また、高評価につながりやすくなります。

セールスポイント

セールスポイントの箇所では、これから行う事業の強みや特徴を記入しますが、その際にキーワードとなるのが「差別化」と「妥当性」です。

何の特徴や強みのない事業では、融資で高い評価を得ることはできませんし、実際の営業をした場合でも、競争力のないものとなってしまいます。

そのため、事業計画においてはこの2点を明確にし、さらにそれらが営業に貢献できるものであることを示すのが重要なポイントとなります。

「差別化」については、他の店舗の取組みなどを参考に、自分でできる特技やスキル、店舗のコンセプトなどを中心に組み立てるとよいでしょう。

公庫の記入例では「豊富なドリンクの種類」や「月1回のギターの演奏会」をセールスポイントとしてあげていますが、実際にはこの程度では弱いといえます。

自分の店でしか体験できないようなことはないかということを軸に、オリジナルのセールスポイントを見つけましょう。

セールスポイントの例としては次のようなものが考えられます。

・食品会社や化粧品会社とタイアップし、メーカーが無料で提供している試供品を女性限定で配布する。

・雨の日に1時間限定で、人気商品をありえないほどの格安価格で販売する。
・占い師とタイアップし、飲食代が一定額を超えた方を対象に、無料で鑑定をうけられるサービスを行う。

なお、セールスポイントを考えるうえで、大切なのが「差別化=奇抜なこと」ではないということです。あくまでも、それが「妥当なものか?」、「集客につながるか?」という視点で考える必要があります。

とくに、金融機関では、奇抜や突拍子のないアイデアを嫌う傾向があります。なぜなら、そのようにものについては、収支や成功の予測が立ちにくいからです。

したがって、セールスポイントを考えるときには、それが見込み客に受け入れられる妥当なものとなっているかを踏まえて作ることが重要となります。

販売ターゲット、販売戦略

販売ターゲットや販売戦略については、以下のポイントを中心に考えていくと、計画がまとめやすくなります。

販売ターゲット

販売を見込む顧客のターゲットについては、できるだけ絞り込んだものとすることをおすすめします。

なぜなら、絞りこみができているほどターゲットが明確になり、それに向けた戦略の効果が高くなるからです。

逆にこの絞り込みが弱い場合には、集客の焦点があいまいとなるだけでなく、広い範囲を対象とした対策が必要となるため、効果も弱くなりやすくなります。

ターゲットは以下のような属性により、絞り込むことが可能です。

・男性、女性
・年齢層
・職業
・住んでいる地域
・個人、ファミリー
・年収

絞り込んだターゲットの例としては、次のようなものが考えられます。

〇「店舗から半径300m以内にある企業に勤務する30代後半〜50代前半のサラリーマン男性で、見込み所得が300〜500万円程度」(海鮮居酒屋のケース)
〇「店舗から徒歩20分、自転車移動10分程度のエリアの子供いる主婦」(女性向け宅配弁当)

販売戦略

販売戦略とは、「集客のための仕組み」を意味します。

公庫の記載例では簡単に触れたものしかありませんが、営業をする上でメインともいえるべき項目なので、実現性の高いものを考える必要があります。

販売戦略で重要なのは、単なる一時的な販促策や広告ではなく、継続的に売り上げが見込める仕組みであることです。

そのため、長く続けられると同時にある程度効果の見込めることが必要となります。

販売戦略の例としては、以下のようなものが考えられます。

『ヘアサロンの例』

① リピータを目的とした全体客数の底上げのための対策
・ 毎週、定期に行う街頭でのチラシ配りの励行(週3回、朝と夕方1時間ずつ)
・ モデルカットの募集による自店利用のきっかけの促進(月5~6人)
・ 新規客の紹介者に対する特典の付与(次回割引券、同伴者カット無料など)
※ 以上の対策により、月30人の新規客の獲得を目指す

② 上記顧客のリピーター化への誘導
・ 個別にカット等の出来上がり後の写真をプレゼントする
・ 来客者へのプレゼント付アンケートの実施による個人情報の獲得
・ 収集した顧客情報のデータ化と目的別管理

③ リピーター客への定着化
・ 来客ごとに撮影した写真をファイル化し、髪型や髪質の変化の履歴を視覚的に見せる仕組みによりアップセル提案をする
・ 施術を快適に過ごすための工夫の実施(自分で選択できる音楽のリスニングなど)
・ サービスに対する無記名での意見の募集とその反映の徹底化
※ ②〜③の対策により、月5人のリピーター化を目指す。

④ その他
・ HPを活用した定期的なイベントの開催やタイムセール的な情報の告知
・ 地域のミニコミ誌への掲載

販売ターゲットや戦略の例

『コスプレヤーを対象としたコンセプトバーの例』

私はこれまで趣味として携わってきたコスプレイヤーの写真撮影がきっかけとなり、この分野の方々と交流をしてきましたが、「お酒を飲みながらコスプレができ、交流もできる」というコンセプトを考えつき、1年ほどバーで店長としての経験を積んできました。

以前は、コスプレに対する拒否反応が大きく、一般的とは認めらない趣味でしたが、近時においてはアニメ文化の浸透や手軽に変身趣味が満たせるというニーズから、一般の方にも幅広く受け入れられるようになってきています。

今回の店舗の大きな特徴は、バーとスタジオの融合であり、店舗のコンセプトは「共感と仲間づくり」です。

バーについては、店員がお客様と同じ趣味・感性をもっているため、一緒に共感できるとともに、違和感を感じさせることがありません。また、お客様から好きなキャラクターを聞いて、そのイメージにあったカクテルを作るなどの試みも取り入れたいと考えています。

スタジオの運営については、コスプレをする方のほとんどが自分のコスプレ写真の名刺を自己紹介ツールとして活用しているという状況があります。

そのため、コスプレ時には完成度の高い写真が撮れるスタジオの存在が欠かせませんが、今回の店舗ではコスプレのレンタルからカメラマンまでが揃うため、その場で撮影や配信が手軽にできることが強みとなっています。

また、店内に大型スクリーンを配置し、コスプレをしている模様を店内の他の方にもみていただけるだけでなく、ネットによりこれらの催しを全国配信して行くことで共感と仲間づくりの輪を広げていくことが可能です。

競合・市場について

競合先や市場を考える場合、
・自店付近の狭いエリアを対象とする場合
・複数地域または全国を対象とする場合
の大きく2つに分けることができます。

前者については、小売店や飲食店などの地域密着型のサービスが主に該当し、後者については比較的大きな規模やエリアを対象としたサービス・ネット販売などが該当します。

前者について市場を説明する場合には、近隣の住民数や駅の乗降客数などのデータが有効となりますが、具体的な競合先の状況については
・店舗を中心に営業範囲を同心円で表した地図を用意する(半径500mなど)
・地域別のデータ(iタウンページなど)を使って、周囲の同業者の数や所在地を割り出す
・得られたデータの場所をその同心円の中にプロットする
などの方法で図面化することで、オリジナルのデータを作ることができます。

また、後者については、業種別の資料等を活用する他、市場規模や主な競合先のシェアを把握することで、今後の戦略に役立てることができます。

<狭い地域での営業をするケース>
営業エリア:〇〇駅付近半径500m圏内
開設予定の物件は、繁華な商店街の中にあり、周囲には居酒屋、料理屋、バーなどが立ち並ぶ区域となっていることから、見込み顧客を誘引するには十分な環境となっている。
また、立地的には、JR「〇〇駅」と地下鉄メトロ線「〇〇駅」のほぼ中間に位置することから、ターゲット層となる見込み客の割合が高く、双方の駅からの乗降客からの集客が見込める環境となっている。
※ 商圏内人口や競合先については別添「商圏調査表」を参照。
<広い地域または全国を対象に営業をするケース>
営業エリア:関東をメインとした全国エリア
市場規模  関東地区  〇億円
全国    〇億円
主な競合先
・A商社 販売額〇万円 シェア〇%
・B販売 販売額〇万円 シェア〇%
・Cサービス 販売額〇万円 シェア〇%
※以下10社程度を抽出

まとめ

公庫の創業計画書における「取扱商品やサービス、セールスポイント」の箇所は、今後の事業の方向性に関する重要なパートとなります。

とくに、事業プランについては「本当に実現ができるのか?」といった根拠や、事業の仕組みについても明確にする必要があります。

そのため、公的な数字や資料を使って説明するのは当然ですが、それだけでなく過去の体験を生かした説明やオリジナルのデータなどがあるとさらに説得力のあるものとなります。

また、プランの内容については自分だけで考えるのではなく、専門家などの意見を参考にするのも効果的です。