女性が起業融資で自己資金なしでも成功する方法
近年、女性による創業が増えつつありますが、その際に問題となるのが「資金の準備」です。
この点につき、日本政策金融公庫では創業者向けの無担保無保証融資を行っていますが、この融資を利用するには、ある程度の自己資金が必要となります。
この記事では女性が起業して融資を受ける際の注意点や自己資金なしで融資が受けられるかなどについて解説いたします。
「自己資金」とは?
自己資金には、大きく分けて2つの意味があります。
一つは「事業を始めるときの元手」という、大きな意味での自己資金です。
そして2つ目が、「融資を受ける場合に求められる」自己資金です。
どちらも同じもののように見えますが、その要件や範囲が異なります。
日本政策金融公庫の新創業融資制度を利用する場合には
「新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方」
については、
「創業資金総額の10分の1以上の自己資金があること」
が要件となります。
これを「自己資金要件」といいます。
自己資金となるもの
新創業融資制度では自己資金として認められるものが、ある程度限定されていますが、次にあげるものは自己資金として認められます。
① 預金や貯金
それまでにコツコツと貯めてきた預金や貯金などは、自己資金の代表的なものとなります。
なお、融資の審査のときには通帳の額だけでなく、それがどのような経緯で貯められたものなのかについても調査されるため、預貯金の出所や経緯を説明できるようにしておく必要があります。
② 株や国債などの有価証券
株や国債などの有価証券は、自己資金として認められます。
ただし、これらは売却のタイミングで価額が変動するため注意が必要です。
なお、自己資金として認められるのは上場された株式のみで、それ以外のものについては、原則として自己資金の対象とはなりません。
③ 退職金
退職時に支給される退職金も、その出所がハッキリわかるものであれば自己資金となります。
しかし、この場合には入金の記録だけでなく、退職証明書などの資料が必要となることがあります。
④ 贈与
親や兄弟などから資金の援助が得られる場合には、これも 自己資金の一部とすることができます。
日本政策金融公庫では、親や兄弟からもらった資金はこれを自己資金として認める扱いとなっています。
しかし、一部の制度融資などではこれを自己資金と認めない地域もあるため、融資の申込みをする前に確認しておくことをおすすめします。
⑤ 保険の解約
生命保険に加入されている場合には、その解約返却金をもって自己資金とすることが可能です。
ただし、返却金がない保険や返却にあたって条件が付いている場合もあるため、保険会社にいくら戻るのかをシミュレートしてもらうようにしましょう。
⑥ 相続により得た財産
親の相続などで取得した財産も自己資金として認められます。
ただし、この場合には、相続をしたことを証明できる資料(戸籍や遺産分割協議書など)、相続人として登記された登記事項証明書などが必要となります。
自己資金にならないもの
以下のものは、新創業融資制度における自己資金として認められません。
① 他から借りた資金
他人から借りた資金は、たとえどんな相手から借りたものであっても自己資金とはなりません。
なぜなら、贈与とは異なり、これらは返済義務がある資金だからです。
そのため、相手が親や兄弟の場合であっても、借りた資金の場合は自己資金とはなりません。
② 出どころの不明な資金
預貯金の通帳に入金されている資金であっても、その出どころや経緯についてキチンと説明ができないものは、自己資金として認められません。
例えば、いきなり第三者から振り込まれた資金などがこれに該当します。
③ タンス預金
タンス預金とは、500円玉貯金のように、自宅に現金で貯めていた資金のことをいいます。
なぜこれが自己資金として認められないかといえば、タンス預金は、貯めた経緯が記録などでわからないからです。
ただし、入金してから半年以上通帳から移動していないような場合には、自己資金として認めてもらえることがあります。
④ 事業に使用しない資金
自己資金は、事業に使用するものであるということが大前提です。
そのため、たとえ多額の資金が入金されている場合でも、今後の事業に使用しない資金については、自己資金とは認められません。
自己資金の確認の方法
日本政策金融公庫では、創業融資の自己資金について、その資金が入金されている預貯金の通帳やその他の資料を提出させ、自己資金に該当するかどうかを判断しています。
たとえば、過去1年程度までさかのぼって通帳の履歴を確認したり、退職金の支払い明細書や相続関係の資料などを確認するなどにより行われます。
また、資金の流れや入金の経緯などに不審な部分があるときや、借りたものではないかと疑いのある資金などについては、詳しく経緯を聴かれたり、資料の提出を求められたりします。
自己資金がなくとも創業融資を受ける方法
新創業融資制度では、原則として1/10の自己資金があることが要件となりますが、次の場合には自己資金がなくとも融資を受けられる可能性があります。
新創業融資制度の特例を利用する
新創業融資制度では、以下のいずれかに該当する方については、特例として、自己資金がなくとも融資の申込みをすることが可能となっています。
〇 現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方で、次のいずれかに該当する方
- 現在の企業に継続して6年以上お勤めの方
- 現在の企業と同じ業種に通算して6年以上お勤めの方
〇 大学等で修得した技能等と密接に関連した職種に継続して2年以上お勤めの方で、その職種と密接に関連した業種の事業を始める方
〇 産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方
〇 民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方
〇 技術・ノウハウ等に新規性が見られる方
〇 新商品・新役務の事業化に向けた研究・開発、試作販売を実施するため、商品の生産や役務の提供に6ヵ月以上を要し、かつ3事業年度以内に収支の黒字化が見込める方
〇 「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」の適用予定の方
しかし、「これらの要件に該当する場合には、自己資金がなくても、必ずしも融資が受けられるわけではない」ということに注意してください。
自己資金の有無は、審査における大きなポイントとなるため、自己資金がないということは、事業の成功確率を下げる要因として判断されます。
そのため、これらの要件に該当する場合でも、自己資金がない場合には、普通に自己資金がある方よりは不利になる可能性が高いといえます。
したがって、融資の確率を高めるのであれば、多少でも自己資金を用意して申込むことをおすすめします。
「資本性ローン」を利用する
「資本性ローン制度」とは、日本政策金融公庫で行っている中小企業の財務体質の強化を目的とした融資制度の一つです。
この融資では、自己資金が不要なだけでなく、融資された借入れを一定期間、自社の資本金とみなすことができるという特徴があります。
また、返済も一定期間ごとまたは一括返済のいずれかで行う、融資利率はその企業の経営成績によって変化するなどの他の融資にはない特色があります。
ただし、この融資を利用するためには、「技術・ノウハウ等に新規性がみられる方」、「事業に新規性及び成長性がみられる方」であることが必要となるため、審査のハードルは高いといえます。
主な融資の概要
<適用できる融資制度>
新規開業資金、女性、若者/シニア起業家支援資金、食品貸付、一般貸付他
<利用条件>
地域経済の活性化にかかる事業を行うことや、税務申告を1期以上行っていること
<融資限度額>
4,000万円
<返済期間>
5年1ヵ月以上15年以内
<利 率(年)>
95%~6.20% ※経営成績により変化
<担保・保証人>
不要
「女性・若者・シニア創業サポート事業」を利用する
「女性・若者・シニア創業サポート事業」とは、市区町村等が開催する創業セミナーに参加するなど、一定の要件を満たす方に対して事業計画書の作成のサポートや特別な融資の申込みを可能とする制度です。
なお、この融資の取り扱いは日本政策金融公庫ではなく、一般の金融機関となります。
この融資では自己資金が必要とされていないため、自己資金がなくとも事業プランの内容次第では、融資を獲得できる可能性があります。
主な概要
<申込みできる方>
女性、若者(39歳以下)、シニア(55歳以上)または創業後5年未満の方で、地域の需要や雇用を支える事業をされる方
<融資限度額>
1,500万円(運転資金のみは1,500万円)
<返済期間>
10年以内(据置期間3年以内)
<利 率(年)>
1%以内
<担保・保証人>
不要。
ただし、法人については、代表取締役が連帯保証人となる場合あり。
「みなし自己資金」を活用する
創業者が事業の開始をする前に使用した資金や経費などは、これを自己資金の一部として認めてもらうことができます。
これを「みなし自己資金」といいます。
たとえば、開業前に仕入れた仕入れ代や備品、交通費、前払いした保証金、家賃などがこれに該当します。
そのため、融資申込前に手持ちの資金がなくとも、これらに使った資金がある場合には、これを自己資金として計上することができます。
ただし、「みなし自己資金」として認めてもらうためには
- 先に使った経費等が事業に関するものであること
- 領収書や伝票などで、使った経費の内容がわかること
が必要となります。
1期を過ぎてから申し込む
新創業融資制度で自己資金が必要となるのは、起業後1期を過ぎるまでの方です。
そのため、1期を過ぎて決算や確定申告をしている場合には、自己資金は不要となります。
この場合の1期とは、1年とは異なります。
たとえば個人事業の場合では、決算期は12月末となるため、仮に9月に起業した方については、約4ヶ月で1期を過ぎることになります。
また、法人についても決算期が3月の場合、12月に起業したのであればやはり1期目は実質4ヶ月となります。
したがって、起業時期を調整し、1期目を短期間で終わらせた上で、2期目になってから融資の申込みをすれば、自己資金がなくとも新創業融資制度を利用することが可能となります。
ただし、この場合には1期目の期間が短いほど、年間の売上や実績が少なくなるため、審査では不利になりやすいことに注意が必要です。
親などから贈与してもらう
日本政策金融公庫では親や兄弟。
配偶者などから事業の支援金などがもらえる場合、これを自己資金として認めています。
そのため、これらの方からある程度のまとまった資金の贈与が受けられる場合には、本人に資金がなくとも新創業融資制度を利用することが可能です。
ただし、ケースによっては、その資金の出所となる親等の通帳や贈与契約書などの提出を求められることがあります。
他から出資してもらう
法人で起業する場合には、経営のパートナーに出資してもらうことで、本人に自己資金がなくとも、これを自己資金とすることができます。
たとえば、株式会社の場合は、代表取締役の出資が0でも他の取締役が500万円を出資していれば、その場合の自己資金は500万円となります。
しかし、この方法は法人で起業する場合でないと使えないことや、原則として、出資による増資の登記までする必要があることに注意してください。
現物出資を利用する
現物出資とは、会社の設立の際に代表者所有の車や不動産、株式などの現物により、金銭に代えて出資する方法です。
適切な手続きがされていれば、この現物出資についても自己資金と認めてもらうことができます。
ただし、現物出資の場合には、資産に流動性が乏しいため、当面の運転資金を賄う方法についても考えておく必要があります。
担保を提供する
融資の申請をする方が不動産などを所有している場合には、これを担保に提供することで自己資金がなくとも融資の借入れをすることができます。
また、自分の所有でなくとも親などが不動産を持っている場合には、所有者の承諾を得てこれを担保に提供することも可能です。
(物上保証人)
ただし、担保の提供をする場合には、その担保に必要な余力があることや、物件が遠隔地のものでないこと、抵当権などの登記をすることなどが必要となります。
制度融資を検討する
制度融資とは、自治体と信用保証協会、金融機関が一体となって、中小企業の融資をしやすくする制度です。
制度融資の中には、自己資金が要件となっていないものがあるため、そのような制度については自己資金なしで申し込める可能性があります。
ただし、制度融資は自治体ごとに行われている制度のため、それぞれ内容が異なります。
また、他の自治体の制度融資に申し込むことはできません。
そのため、あらかじめ自分の地域の制度融資の内容がどうなっているかを確認する必要があります。
「新創業融資制度」について
起業の際には、多くの資金が必要となりますが、その場合におすすめなのが日本政策金融公庫の「新創業融資制度」です。
新創業融資制度とはどういう制度なのか?
「新創業融資制度」とは、日本政策金融公庫の融資制度の一つで、創業者向けの融資を無担保無保証で利用できるようにするための特別な制度です。
日本政策金融公庫の融資には、原則として担保や保証人が必要となります。
しかし創業者にはこれらを準備できる方が少ないため、担保や保証人のない方でも「無担保無保証で融資を利用できるための枠」が新創業融資制度となります。
新創業融資制度を利用できる方
新創業融資制度を利用するためには、以下の2つの条件を満たす必要があります。
① 「期限の要件」
新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方
② 「自己資金の要件」
新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金(事業に使用される予定の資金に限る)を確認できること
新創業融資制度の条件
<資金使途>
新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金
<融資限度額>
3,000万円(うち運転資金については1,500万円が限度)
<返済期間>
各融資制度に定める返済期間以内
<利 率(年)>
37%~3.05%(令和4年3月現在)
<担保・保証人>
原則不要
法人がこの制度を利用して借り入れをする場合には、代表者個人には責任が及ばないものとなっています。
なお、もし、法人で代表者が連帯保証人となる場合には、利率が0.1%低減されます。
女性による起業の特徴と注意点
起業にはどのくらいの資金がかかる?
起業をするには、どのくらいの資金が必要になるのかは、業種や規模などにより異なりますが、一般的な規模での起業では次の程度の費用がかかります。
飲食店 800〜1,500万円 ラーメン店 400~1,000万円
美容室 700~1,500万円 学習塾 200~1,000万円
不動産業 500〜1,000万円 士業 50~100万円
なお、日本政策金融公庫の「2020年度新規開業実態調査」によれば、2019年の開業費用の平均値は989万円となっているということにも留意しておきましょう。
女性起業家の起業率・廃業率
日本政策金融公庫総合研究所が発表した最新の調査結果である2020年のデータによると、全起業家のうち女性が占める割合は21.4%(前年対比で+2.4%)となっており、調査を開始して以来最も高水準となっています。
また、さらに、起業した業種は1位:個人向けサービス業、2位:事業所向けサービス業、3位:情報通信業となっており、組織形態については約9割の方が個人事業となっています。
しかし、一方で廃業率も22.9%と高く、男性の廃業率11.8%と比較すると約2倍の数値となっています。
女性は融資を受けられる確率が低い?
独立行政法人経済産業研究所の調査結果「女性は融資を受けられる可能性は低いのか?」によれば、「融資の検討をした人」に対して融資が受けられた人の割合は、女性では13%程度と男性より低い結果が出ています。
一方、実際に「融資を申し込んだ人」を対象としたサンプル分析によれば、男女間での差はほとんどなく、申し込みさえすれば、女性でも男性とほとんど変わらない確率で融資が受けられることを示しています。
したがって、女性起業家が資金を手に入れるには、申し込む前からあきらめるのではなく、まずはシッカリとした準備をした上で申し込むということが重要といえます。
女性の強みを活かして審査を有利にする方法
女性が融資を申し込むときには、男性とは異なる女性ならではの特徴や利点をアピールすることで、さらに融資の確率を高めることができます。
女性ならではの視点をアピール
一般的に、女性は家庭内で男性よりも強い購買決定権を持っているとされます。
そのため、商品の開津やプロモーションなどには、女性ならではの視点が欠かせません。
このような女性特有の視点や感性を生かした事業プランを組み立てたり、女性にとって魅力的なサービスを生み出すことができれば、融資審査においても有利となります。
ネットワークの強みをアピール
身近に多くのネットワークを持っているのも女性の強みです。
このネックワークを活かした販促活動を計画に組み入れたり、SNSを利用した口コミなどを活かすことで、幅広い集客効果を期待できるとともに、その後の見込客の獲得につなげやすくなります。
女性の起業に向いている職種で起業する
融資審査での印象を高めるには、女性に向いた職種で起業するというのも一つの手です。
たとえば、女性の起業に向いた職種としては、次のようなものが考えられます。
- 美容サロン(ネイリストやエステティシャンなど)
- 特技を活かした自宅教室(着付け・料理・英会話など)
- ショップの経営(ハンドメイド・セレクトショップなど)
- ネットビジネス(ライター・デザイン・画像制作など)
このような職種であれば、女性ならではの強みが生かせるため、計画の上で差別化がしやすく、審査でも有利になりやすいといえます。
まとめ
女性が起業にあたって資金を獲得するには、日本政策金融公庫の新創業融資制度がおすすめですが、その際には一定の自己資金が必要となります。
しかし、自己資金がなくともこの融資を利用できる方法や、これに代わる方法もあるので、まずは必要な条件を満たしているかを確認しましょう。
また、新創業融資制度に限らず、自己資金が不要で利用できる制度もあるので、これらについても利用できないかを検討することをおすすめします。
「いい税理士さんに出会えてよかった」と言われるために、従業員一同情熱と信念を持って業務に取り組んでおります。税金についてだけではなく「補助金」「融資」「経営」などについて不安なこと、わからないことがありましたら、お気軽にご相談ください。