【税理士が教える】法人化をして後悔する4つのこと

個人所得が500~800万円を超えたあたりから、「そろそろ法人化をした方が良いのでは?税金面などのメリットがありますよ」という情報を耳にすることが増えてきますよね。

法人化すると個人事業主でいたころより対外的信用力もアップするので、業績を伸ばしやすくなるだけでなく、必要な資金調達などもしやすくなるでしょう。

しかし、良いタイミングだと思って法人化したのに、後悔してしまう人も少なくありません。今回は法人化をして後悔する4つについて解説します。

法人化をして後悔する4つのこと

法人化をして後悔する原因はおもに以下の4つです。

 

法人化して後悔する4つのこと

  1. コスト(お金)の問題で後悔
  2. 管理の問題で後悔
  3. 経営方針の問題で後悔
  4. 法人化廃業の問題で後悔

これらの問題をしっかりと把握しておかないと、法人化で得られるメリットよりもデメリットの方が大きくなり、後悔するパターンにおちいりやすくなります。

解決につながる対策も知っておくと便利です。

法人化で発生するお金の問題で後悔

法人化をすると個人事業主だった頃とは違い、税金面で優遇されたり、給与や退職金、生命保険料なども必要経費として計上できたりするなどのメリットがあります。

しかし、法人化してすぐに社会的信用度が上るというわけではありません。

そのため法人化したばかりのころは、現金での取引が主になることもまだ多く、準備金が少ないとお金の工面に走り回ることになってしまうのです。

さらに、キャッシュレス化が進んだ影響から、収益が上っても実際に手元に利益が入るまでにタイムラグがあり思うようにお金が入らないという悩みも増えています。

また、かなり細かなことではありますが、法人化するとネットバンクの開設手数料やインターネットプロバイダー契約料なども『法人価格』で高くなるのです。

法人は個人事業のころよりも優秀な人材が集まりやすくなるため、長く働いてもらい業績アップに貢献してもらうためには、それなりの給料を出さなければならないという問題もあります。

節税目的で法人化したのに意外にコストが多くかかって驚いた!とならないために、法人化で発生するお金の問題にはどのようなものがあるのかを知っておきましょう。

法人化をするときにかかる準備費用で後悔

法人化をするときには、なにより資金力が必要です。

個人事業を始めるときは税務署に開業届を提出するくらいですが、法人化となれば定款(認証代に5万円ほどかかる)の作成のほか、登記費用(登録免許税など)に25万円~30万円程度かかります。

これらは、株式会社と合同会社、一般社団法人など会社形態によって値段に違いはあるものの、税務署にもいくつか届出書を提出しなければならないなど、時間もお金もかかります。

その理由は法人という名前のとおり、法律上の権利と義務の主体になることを認められた団体になったからです。

法人を設立するときには法律の規定によらなければなりません。

なお、自分で書類作成したり電子定款(収入印紙代40,000円がかからない)を取り入れたりすれば、費用を押さえることが可能です。

いざとく時に慌てないためにも、準備費用を始めとした法人化をするときにかかるお金についてシュミレーションしておくことをおすすめします。

法人化したら『維持費』がかかり続けて後悔

法人化すると、会社が存在しているだけで税金が発生します(法人住民税5万円+地方税2万円を毎年)これらは経営状態や利益額に関係なくかかり、たとえ売上が赤字であってもかかり続ける最低限の税金です。

しかもこれは、会社の規模が小さいときの税金額です。資本金が多かったり従業員数が増えたりした場合には、会社設立後の固定費(維持費)はもっと高額になります。

毎月のオフィスの家賃・光熱費・通信費などの固定費・社員への給料・福利厚生費なども滞らないように払い続けなければなりません。

経費で処理できる部分も多くはなりますが、法人化すると税務調査も入るようになるため、利益を増やすことばかりではなく、事務処理にもさらなる正確さが必要なのです。

経理などの事務的な処理も増え、法人化前よりも手間がかかります。

税理士・社労士(場合によっては弁護士)など専門家との顧問契約を結ぶ必要があり、そのためのお金が必要です。

法人化によって社会保険の負担額が増えて後悔

法人化をしたら、思ったよりも社会保険料が負担に感じたという声も多く聞かれます。個人事業主の場合、従業員が5人未満なら社会保険に未加入でもかまいませんが、法人化したら従業員の数に関わらず、社会保険に加入する義務があるのです。

法人化によって加入する社会保険料は、従業員と折半で支払わなければなりません。従業員にとってはありがたい制度ですが、経営者側からすれば経営状況が苦しいときには大変です。

従業員がおらず社長一人の会社であっても、社会保険には強制加入となります。法人化によって発生する社会保険の負担額は、健康保険と厚生年金を合わせて、給与金額の約30%です。

年収500万円を例にした場合の社会保険料は約150万円となり、そのうちの半分である約75万円を会社側が負担することになるのです。従業員が増えれば、その人数分だけ社会保険料の負担額は大きくなります。

なお、従業員の年齢が40歳になると『介護保険』の適用も始まります。

法人化すると会社のお金を自由に使えなくなって後悔

法人化をすると個人と法人の財産が区別されるようになります。売上金はあくまでもお客様から法人がいただいたお金だからです。

そのため、たとえ社長一人しかいない会社だとしても、法人化している限り会社のお金を自由に使うことはできません。法人の口座から勝手に現金を引き出してしまうと、税務上のトラブルにつながる場合があります。

会社の利益が多く出ていたとしても、利益は会社のお金であり、家賃・仕入れ代・従業員の給料・銀行への返済などに使うために存在してるのです。

ちょっと怖い話ですが、給与分以外のお金を使ってしまうと横領扱いになることもあります。

個人事業主のころとの大きな違いはここにあると言っても過言ではないでしょう。

不正ではなく会社のお金を使用可能にするためには、以下のような措置もあります。

  1. 役員報酬を調整
  2. 賞与
  3. 退職金(社会保険料がかからない)
  4. 役員貸付金
  5. 経費で落とせるものを見直す

役員報酬の調整をすると、法人個人に現金を多く残せます。

しかし、その金額は一定を保つ必要があり、法人税が高くなるデメリットもありますので、金額調整は慎重に行う必要があるでしょう。

賞与の場合は、会計期間の開始日から4ヵ月以内(または株式総会決議から1ヵ月を経過する日)に税務署に届け出書類『事前確定届出給与に関する届出書』を提出すれば、経費として計上が可能でその分の税金を軽くすることが出来ます。

役員貸付金は会社からお金を借りて使うことなので、『金銭消費貸借証明書』を会社と交わし、利息とともに返済しなければなりません。

おもに節税につながるものをザックリと解説しましたが、手続きに必要な書類の漏れなどが無いよう注意が必要です。

法人化をしたら管理すべきことが増えて後悔

法人化すると『法人格』を得ることができて社会的評価や信用が高まったり、支払う税金が安くなったりというメリットがある反面、いろいろな責任が一手に覆いかぶさって来るようになります。

従業員を雇えば、その人たちへの保証のために管理すべきことが増えるからです。売り上げの良し悪しに関わらず給与を払い続けなければなりません。

そのため、個人事業主だったころに比べて届け出しなければならない手続き関係が複雑化します。事務処理量や手間が増えて経理を雇う必要性も出てきます。

特に会計業務が煩雑になることが多く、自分で全てを管理するのが難しくなってくるのです。

専門知識が欠かせない税金関係では、法人税などの申告書が複雑で手が回らず、安全に管理していくために税理士や会計士との顧問契約が必要になることが多いです。

役員の任期・辞任・就任などに法にそって対応する必要がある

株式会社の役員の任期は10年(非公開会社の場合)ですが、同じ人が継続するからと言って手続きを怠ってしまうと会社が解散の危機に瀕する場合があります。

役員の任期のみならず、辞任や就任などの変更が発生した際には、2週間以内に届け出をしなければならない決まりがあるのです。

変更登記申請書の提出(株式会社、特例有限会社、持分会社など会社形態によって様式が異なる)や株主総会議事録、株主リストなども必要となります。

また、任期満了での役員の退任にはほとんど問題はありませんが、問題がある場合の辞任や解任は、その後の取引先との信用問題にも深くかかわって来るので注意が必要です。

決算報告書や法人税申告書などの書類作成が面倒

個人事業主の場合、12月31日が決算日ですので12月31日に帳簿を締め、翌年の3月15日までに所得税の申告をします(消費税は3月31日まで)。

一方、法人化をした場合は、決算日を自由に決めて定款に記載できますが、所得税・消費税ともに決算日から2ヵ月以内に申告を終えなければならず納付期限も同じ日です。

そのため決算期のスケジュールがかなりタイトなものになります。

また、申告書の提出先は以下のようになり、別々に作成する必要があります。

  • 所轄の税務署
  • 都道府県税事務所
  • 市町村

法人税の申告書は『別表』と呼ばれ、複数の種類(一~十九)があります。

適切な納税額であることを証明するための書類であり、必ず提出しなければならないのは、別表一、別表二、別表四、別表五(一)、別表五(二)です。

必要な別表のそれぞれの役割りは以下の通りです。

  • 別表一:各事業年度の所得に関わる申告書
  • 別表二:同族会社等の判定に関する申告書
  • 別表四:所得の金額の計算に関する申告書
  • 別表五(一):利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する申告書
  • 別表五(二):租税公課の納付状況等に関する申告書

これらの書類を作成するためには、決算報告書・勘定科目内訳書・事業概要書・適用額明細書などを添付する必要があります。

損益計算書(別表四)と貸借対照表(別表五(一))に該当するものを関係づけて作成しなければならず、書類は各法人の決算の内容によって違います。

滞りなく作成するためには、税務の専門知識が必要になるのです。

定款の変更にはその都度対応しなければならない

会社を運営していくために必要な基本的ルールが書かれているのが定款ですが、定款は『会社の憲法』とも呼ばれているくらい重要なものです。

そんな定款の内容は、一度作成したらずっと固定されるものではありません。

法人の事業内容や組織、資本などに変化が生じたときには、単に書き換えるだけで変更はできず、以下のような手順で定款の変更を行う必要があります。

  1. 株主総会で定款変更についての特別決議を行う
  2. 議事録を作成する
  3. 定款変更の内容に応じて登記申請し、原始定款※と一緒に保管する
定款の変更で登記申請が必要な項目について(株式会社の場合)
  • 絶対的記載事項の変更(商号・事業目的・発行可能株式総数・本店所在地変更)
  • 相対的記載事項の変更(株券発行・取締役会設置・監査役設置・公告の方法)
  • 任意的記載事項の変更(資本金の額)

これらを法務局に登記申請する際には、基本的に登録免許税として3万円かかります。

しかし、本店の法務局管轄外移転や、支店の設置・移転時には金額が変わる場合があります。役員の任期は登記事項ではないため、変更しても登記の変更は不要です。

なお、定款の変更で登記申請が必要な項目については、正確な判断が難しい場合もあります。絶対的記載事項以外の部分を変更するときには専門家に確認すれば安心です。

※会社設立時に作成した一番初めの定款。

株式会社は公証役場で認証を受ける必要がある

法人化をして経営方針のズレや変化に後悔

法人化をするときには、同じ志を持った知人や友人と会社を立ち上げたり、複数人でお金を出し合って資金を集めたりする人も多いでしょう。

一人で立ち上げた会社であっても、出資金を出してくれる人が別にいるというケースもあります。

しかし、事業を運営していくうえで、法人化したあとで経営方針にズレが生じると、共同経営者や出資者にも発言権があるため、社長一人の意見が通らず予想以上にこじれてしまうことがあります。

法人化をしてからの経営方針の変化をめぐって意見が分かれ、解散や分離が起こると、株式などのお金の問題も発生するため、どうすれば良いのか悩むことになるのです。

解散や分離まで行かなくても、経営方針の変化によって変更した事柄についての届出も必要となります。人によっては「こんなことなら法人化しないほうが良かった」「資金が十分に貯まってから一人で法人化すれば良かった」などと後悔するパターンに陥るのです。

経営方針の違いなどによる役員の辞任・解任などが起こる

共同経営で始めた事業が法人化をした場合、経営方針の食い違いから一方が辞任することになる場合があります。個人事業主のときの人事とは違い、法人の場合は罰則があったりさまざまな決まりがあったりするので知っておきたいものです。

会社法では、株主総会決議があれば役員の辞任だけでなく、どんな場合でも解任も可能です。役員の中でも責任者である取締役が解任させられることもあり、その内容は経営方針のズレや違いだけでなく、不祥事を起した場合なども含まれています。

基本的には辞任は本人の意思で自由に辞めることが可能です。たとえ会社から反対されたとしても、承諾される必要もなく辞任できます。ただし、『取締役の立場にある人が会社に不利な時期に辞任』した場合、損害賠償義務が発生するとされており、注意が必要です。

また、逆に取締役を解任させたいと考えた場合にも「クビです」の一言や、退職届を提出させることでは通りません。原則として50%を上回る議決権をもった株主を集めた株主総会を開き、出席した株主の過半数が取締役解任に賛成すれば解任することができます。

ただし解任の理由が正当でない場合、会社側が損害賠償責任を負うことになるのです。

出資者から出資金を払い戻したいと言われる場合もある

経営方針の違いで、出資者が会社との関係を終わりにしたいと言い出した場合、出資額の返還を求められることがあります。この場合、出資額としてお金を出し合った場合には、自由なお金ではなく『会社のお金』ですので現金での返還はできません。

さらに返還する義務もないのです。ただし、株式会社の出資者は会社の株主(持ち主)であり、間接責任者ですので、出資者から『株式買取請求』を求められた場合は話が違います。

株主は会社に対して、一定の場合に自分が保有している株式を公正価格で買い取るように請求できる権利『株式買取請求権』があるからです。

出資者から『株式買取請求』を求められた場合には、株式を売却してお金に換えてから、出資者に資金を返すことになります。

上場企業などと違う小さな会社では、定款で株式の『譲渡事態を制限』しているケースがあるため(制限譲渡株式会社)会社や取締役、株主などに対して株式の買い取りを請求してから、支払うパターンが多くなるのです。

しかし、会社の財務状況が厳しいと株の買い取りができないこともあり、会社を清算したあとに残った財産を分配して資金回収することもあります(残余財産の分配)

なお、出資という形ではなく、融資(銀行や人からお金を貸りた)を受けていた場合には、利息とともに現金で返済する義務があります。

法人化をしたあと廃業・解散が簡単ではなくて後悔

資金繰りがうまくいかない、業績が悪化した、後継者がいないなど…。法人化したけれど残念ながら経営を続けられなくなってしまうこともあるでしょう。

法人化がうまくいかなかった場合、廃業したり解散したりすれば良いと考えるかもしれませんが、なかなか簡単ではないのも後悔の原因となります。法人化の廃業や解散には、時間と手間がかかるのです。

法人化の廃業手続きをするには、以下のような手順で会社の清算・解散を申し出ます。

  • 解散日から2週間以内に法務局で解散の登記と清算人選出の登記を行う
  • 税務署と市区町村に『移動届出書』を提出する
  • 休業する場合は、『休業することを記載した移動届出書』を提出

解散決議から清算手続きまでには2ヵ月以上かかると言われており、その後決算結了です。

会社の解散に必要な手続きには4万1,000円の登録税と官報の広告費用が3~4万円かかります。

廃業や解散ではなく、会社の『休業』を選べば再び法人に戻ることができ、登記が不要なので手続きが簡単でコストがかかりません。

しかし、休業中であっても地方法人税の均等割(年7万円・赤字でも発生)の納付が義務付けられています。

※自治体により減免措置あり

会社に債権・債務がある場合にはその清算手続きが必要になる

会社に債権や債務が残っている状態での解散はできません。

解散するときに会社の資産を売却したり、債権を回収したりして資金が作れれば『通常清算』という形で債務を弁済し、初めて解散が成立します。

しかし、債務超過などで完済できない場合には『特別清算(株式会社のみ)』や『破産申し立て』を裁判所にしなければなりません。

破算する場合は、弁護士によって費用は違いますが、50万円~150万円程度かかり、債権者数や債務金額が多いほど高額になるとされています。

法人成りから『個人成り』にするには

法人を廃業・解散したあとで個人事業主に戻るには、法人形態から個人事業主に戻る『個人成り』の手続きを以下の手順で行います。

  1. 個人事業主の開業届出もしくは廃業届出等手続き
  2. 所得税の青色申告承認申請手続き
  3. 青色事業専従者給与に関する届出手続き
  4. 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請
  5. 給与支払事務所などの開設・支払・廃止の届出

※これらは業種や希望する特例事項によって違いがあります。

このほか、銀行の法人用の廃止、個人用の開設・法人名義の不動産・車両の買取名義変更、健康保険や年金の書き換え作業も忘れずに行わなければなりません。

個人成りの開業届をすることで、青色申告特別控除を受けられたり、屋号を使った銀行口座開設ができたりするなどのメリットがあります。

まとめ

法人化をして得られるメリットは主に節税だと言われているものの、利益がどのくらい出たときが目安であるという意見には専門家であっても意見が分かれるのが現実です。

利益が500~600万円を超えたあたりで法人化してスムーズに経営していける会社もあれば、900万円以上利益を出していても不安定で法人化を後悔する会社もあります。

一概に利益だけでの線引きができないのです。

かかるお金や税金だけでなく、法律にそって進めなければならない細かい手続きなどが法人化したあとには多数発生します。

デメリット面もチェックしながら、きちんと管理していかなければなりません。

「こんなはずじゃなかった、知らなかった」と後悔しないためにも自分一人で法人化を決めずに、専門家に相談しながら進めて行くことをおすすめします。