小規模企業共済を法人成り後も継続する場合の注意点

これまで個人事業をされてきた方の中には、今後、法人成りをお考えの方も少なくないと思います。しかし、その際に悩みとなるのが、「個人事業から法人へスムーズに移行できるか?」ということではないでしょうか?

とくに保険や共済などについては移行ができないと、「解約になる」、「予定した給付額が受けられない」などのデメリットを生じる可能性があります。

この記事では、個人事業主の方が法人成りした場合の小規模企業共済手続きや注意点について解説いたします。

個人事業で加入した共済は、法人成り後はどうなる?

小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の役員が加入できる制度ですが、あくまでも個人を対象とした制度です。

そのため、個人事業で加入した共済の取り扱いが、法人成り後にどうなるかはケースによって異なります。

完全に法人成りする場合

個人事業から完全に法人成りする場合(個人事業については廃業)には、法人について加入要件を満たせていれば、個人事業主のときの掛金納付月数を通算してそのまま契約を継続することができます。

(同一人通算)。

 

ただし、「新設した法人が小規模事業者にあたらない」、「新設法人の役員とならない」などの場合には、掛金額と同額の「準共済金」が支払われた上で解約となります。

個人事業を残して法人化する場合(代表者が同じケース)

個人事業を残して法人成りする場合で、個人事業主と法人代表者が同じときは、それぞれの資格にもとづき二重に加入することはできません。

 

そのため、

  • そのまま個人事業の契約を継続させる(法人については加入しない)
  • 個人事業の契約を解約して、法人について新規に加入

のいずれかが必要となります。

個人事業を残して法人化する場合(代表者が異なるケース)

上記と同じく、個人事業を残して法人成りする場合でも、法人の代表者が個人事業主と異なる場合には、法人は新規に共済へ加入することが可能です。

(法人と個人事業の代表が別々の個人であるため)

ただし、個人事業主がその法人の役員になる場合には、役員としての加入は不可となります。

小規模企業共済とは?どんな人や企業が加入できる?

「小規模企業共済制度」は、個人事業主や小規模企業の退職時に共済金が支払われる制度です。

しかし、加入に関してはいくつかの条件があるため、法人成りによってこの要件を満たさなくなってしまった場合には、加入できなくなることに注意が必要です。

「小規模企業共済」の概要

「小規模企業共済制度」とは、独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)が行っている、小規模企業の経営者や役員、個人事業主などを対象とした積み立てによる退職金制度です。

本共済は、2021年3月現在、全国で約153万人の方が加入し、資産運用残高は約10兆5,018億円、運用利回りも5.26%(2020年)と高い成績を実現している、大型かつ安全性の高い制度です。

(参照:中小機構HPより)

個人事業主の廃業時や法人の役員の退任時、または役員等の死亡時に共済金が支払われるため、万が一の時の備えや通常の退職金の上乗せ手段として活用できます。

小規模企業共済に加入するには?

小規模企業共済制度は、次のいずれかに該当する場合に加入することができます。

 

① 建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)、不動産業、農業などを営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社等の役員

② 商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社等の役員

③ 事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員の数が20人以下の協業組合の役員

④ 常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員

⑤ 常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員

 

「常時使用する従業員」には、パート、アルバイトなどの非正規労働者や、家族従業員、共同経営者(2人まで)を含みませんが、会社の役員、監査役、業務執行役員(外国人を除く)はその対象となります。

なお、常時使用する従業員の数が20人(商業やサービス業については5人)を超えてしまうと共済への加入ができなくなってしまいますが、加入後にこの人数を超えた場合には、退会とはならずそのまま加入を継続することができます。

 

小規模企業共済に加入した場合のメリットと注意点

小規模企業共済に加入または契約を継続した場合には以下のようなメリットがありますが、注意点もあるため、それぞれについてよく理解しておきましょう。

小規模企業共済に加入するメリット

① 掛け金の全額が控除可。

この共済の掛け金は、個人の確定申告の際に全額を課税対象所得から控除できるため、節税に役立ちます。

掛け金は最低1,000円/月〜(最大は70,000円)と少ない資金で加入できます。

また、加入後も掛金を500円単位で変更することができるため、個人事業から法人成りをして、「今のままでは掛け金が少ない」というときにも、簡単に増額することが可能です。

なお、納付方法は「月払い」「半年払い」「年払い」の3つから選択できる他、業績悪化などで支払いが困難な場合には、一時的に支払いを停止する「掛け止め」を利用することもできます。

② 一括・分割・一括と分割の3パターンから選んで共済金の受取りができる

共済金は役員等の退職時または事業の廃業時などに受け取ることができます。

契約の満期や上限額がないため、加入者の都合に合わせた設定をすることが可能です。

また、共済金の受け取り方は「一括」「分割」「一括と分割の併用」の3種類から選択でき、それぞれにつき次のような税制上のメリットを受けられます。

  • 一括受取りの場合        退職所得扱い
  • 分割受取りの場合        公的年金等の雑所得扱い
  • 一括・分割併用で受け取る場合  (一括分)退職所得扱い

(分割分)公的年金等の雑所得扱い

③ 低金利の貸付制度を利用できる

共済の契約者の方は、掛金の範囲内で事業資金の貸付を年0.9%~1.5%の低金利で、最大2,000万円まで利用することができます。

また、貸付の内容も一般貸付や緊急経営安定貸付、廃業準備貸付などバリエーションが豊富で、即日貸付けにも対応しています。

④ 付加共済金を受け取れることがある

運用収入等に応じて、経済産業大臣が毎年度定める率により算定される付加共済金がある場合は、その金額が加算されます。

付加共済金は、共済金の額のうち基本共済金の額に上乗せする部分です。

基本共済金と同様に区分ごとに計算し、脱退するときに一括して受け取ることができますが、解約手当金は対象になりません。

⑤ 高い利回りでの運用が期待できる

小規模企業共済では、掛金を原資に運用を行っており、その運用収入の見込みを算出する際の予定利率を1%と設定しています。

そのため、銀行の普通預金などと比べて高い利回りが期待できます。

小規模企業共済に加入するときの注意点

① 事業上の損金または必要経費には算入できない

掛金は税法上、全額を小規模企業共済等掛金控除として、課税対象となる所得から控除することができますが、これは個人の所得から控除するものであり、経費や損金ではありません。

※「課税される所得金額」:その年分の総所得金額から、基礎控除、扶養控除、社会保険料控除等を控除した後の額で、課税の対象となる額。

そのため、法人成りをした場合でも、損金算入の優遇の対象とはならないことに注意が必要です。

② 加入期間が短期間の場合には受け取れない

掛金納付月数が6か月未満の場合は、廃業や退任、死亡による給付金や老齢給付金(65歳以上で180ヶ月以上払い込んだ方が対象)を受け取ることができません。

また、12か月未満の場合は、法人成りをしたことにより加入資格がなくなった場合の共済金や解約手当金を受け取ることができなくなります。

③ 20年以上加入しないと共済金が掛金合計額を下回る

共済の掛金納付月数が240か月(20年)未満の状態で任意解約をした場合は、共済金が掛金合計額を下回ることとなります。

そのため、法人成り後に加入要件を満たせず、それまでの契約も任意解約してしまった場合には、月数によっては共済金の額が掛金総額を下回ることがあります。

まとめ

「小規模企業共済制度」は、個人事業主や小規模企業の退職や死亡時に共済金が支払われる制度です。

また、個人事業主が法人成りをした場合でも、その法人に加入資格があるときは、個人事業の契約をそのまま引き継ぐことができます。

しかし、個人事業と法人を併存させる場合には、その状況により加入の可否が異なりため注意が必要です。

なお、掛け金のすべてが損金になるわけではない、加入期間が短い場合には共済金の受取りができないなどのデメリットもあるため、これらについても検討しましょう。