法人成りの手続き内容を分かりやすく解説します!

これから法人成りをお考えの方の中には「どのような手続きが必要なのか?」や「どの種類の会社を選べばよいのだろう?」ということが気になっている方もいらっしゃると思います。

法人成りをするときには、手続きだけでなく、選ぶべき会社の種類や設立後の手続きなどについても、俯瞰的に理解しておく必要があります。

この記事では、法人成りの手続きだけでなく、法人成りに際して必要となる情報をまとめて解説いたします。

「法人成り」とは? 法人成りで得られるメリットはこんなにある!

「法人成り」とは、個人事業主が新たに会社を設立して、個人の資産と負債を新設会社に引き継ぎ、法人として事業を継続することを意味します。

営業を引き継ぐことがポイントであり、単に資本金だけを出資して新たに法人を設立するだけのケースとは異なります。

 

法人成りをすることにより、次のようなメリットが得られます。

  • 社会的な信用が高くなる

法人成りをすることにより、社会的な信用力が高まるため、営業や取引をする場合などに有利となりやすくなります。

  • 税金が安くなる

法人税では個人の所得税よりも課税の仕組みが緩やかなため、所得が900万円を超えたあたりから法人の方が有利となります。

  • 経費が使いやすくなる

法人では、個人事業では認められない経費の利用ができるようになるため、節税をしやすくなります。

  • 許認可の承継がしやすくなる

代表者の変更や死亡の際には、個人事業では新たに許認可を取り直さなければなりませんが、法人の場合にはそのまま継続することができます。

また、その他として「法人と代表者の法人格が分離できる」、「代表者の相続時に法人に相続税がかからない」などのメリットがあります。

法人成りで必要となる手続きの流れ

法人成りをするときには、以下の手順により行います。

① 移行する法人の種類の選択

(普通会社の場合、株式・合同・合名・合資会社から選択)

② 会社の設立手続き

(定款・登記申請書等を作成して法務局へ提出)

③ 資産の引き継ぎ手続き

(個人事業の財産と負債を法人に移転)

④ 個人事業の廃業手続き

(個人事業の廃業届の提出)

⑤ 行政への各種届出

(税務署や社会保険事務所などへの届出)

これらはいずれも手続きの順番が決まっているため、これを無視したやり方をしたり、順番を変えてしまうと、その先の手続きができなくなったり、2度手間となってしまうためご注意ください。

どれを選ぶ? 法人成りする会社の特徴について

現在、設立することのできる会社は4種類あり、それぞれで出資の形態や組織の構成、設立時の手数料などが異なります。

また、どの種類の会社を選ぶかにより、準備する書類が異なったり、取引に影響することもあるため、法人成りの際にはどの種類の会社にするかを事前に決めておく必要があります。

ここでは各会社の主な特徴や、設立にかかる費用などについて解説いたします。

株式会社

株式会社は、日本で最もポピュラーな会社形態で、平成30年の国税庁調査では会社全体の93.3%を占めるとされています。

株式会社の一番の特徴は、株式を発行してそれを株主(設立時は発起人)に引き受けてもらい、その出資金を資本金として設立するということにあります。

他の会社よりも高度な自治設計をすることが可能です。

 

なお、現在、株式会社は、株主一人、資本金1円からこれを設立することができます。

設立登記には、資本金額に応じた登録免許税(15万円~)の他、公証人の定款認証手数料(5万円)の他、定款を紙で作成した場合には4万円の印紙税がかかりますが、電子定款で作成した場合には印紙税は不要となります。

合同会社

合同会社は2006年の会社法施行により新たに導入された法人形態であり、全法人の3.6%の割合を占めます。

合同会社の特徴は、柔軟な内部設計が可能な点と、株式会社よりも安い費用で設立できるという点にあります。

 

合同会社も、株式会社と同様、社員一人、出資金1円からこれを設立することができますが、株式会社と違って定款に公証人の認証は不要です。

 

合同会社は、登録免許税6万円~、定款の認証料不要であるため、株式会社より割安に作ることができます。

合名会社

合名会社は、4つの会社類型の中で最も原始的な形の持分会社で、無限責任社員のみから構成された、いわば個人事業主の集まりに近い形態となります。

合名会社は、1名以上の無限責任社員がいれば設立することができます。

 

なお、株式会社や合同会社では、金銭または現物による出資のみが認められていますが、合名会社では「労務」によっても出資をすることができます。

 

設立にかかる費用は、登録免許税の6万円のみとなります。

合資会社

合資会社は、無限責任社員と有限責任社員から構成される持分会社のひとつです。

1名以上の無限責任社員と1名以上の有限責任社員から構成されるため、設立には最低2名の社員が必要となります。

 

合資会社では、合名会社と同じく「労務」による出資が認められ、設立にかかる費用は登録免許税の6万円のみとなります。

なお、現在、有限会社は新設することができないことに注意してください。

会社の設立手続きについて

会社の設立は、以下の手順で行います。

h3 定款の作成

どのような会社を作るかを決めたら、会社の基礎となる定款を作成します。

定款は法律で定められた事項を決定し、株式会社の場合には公証役場で公証人の認証を受ける必要がありますが、その他の種類の会社については認証は不要です。

例:株式会社の定款の絶対的記載事項(会社法27条)

「事業の目的」

「商号」

「本社所在地」

「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」

「発起人の氏名と住所」

設立登記申請書の作成と提出

定款を作成後は、設立登記申請書を作成し、管轄の法務局へ提出します。

「登記すべき事項」には、必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」と、定款で定めた場合に登記しなければならない「相対的記載事項」、定めることが任意とされている「任意的記載事項」の3種類があります。

 

そのため、登記申請の際には、自分の会社の状況に応じて必要となる事項を決めた上で、登記の申請をする必要があります。

<株式会社の絶対的記載事項>

  • 目的
  • 商号
  • 本店の所在場所(支店がある場合には支店所在地)
  • 資本金の額
  • 発行可能株式総数
  • 発行済株式の総数(種類株式を発行の場合はその種類及び種類ごとの数)
  • 取締役の氏名
  • 代表取締役の氏名と住所
  • 公告をする方法

<株式会社の相対的記載事項>

  • 株式の譲渡制限に関する定め
  • 発行する株式の内容
  • 株券発行会社であるときは、その旨
  • 取締役会設置会社である旨  他

なお、登記は、申請をした日から10〜15日程度で完了するのが一般的です。

法人成りに伴う「資産の引き継ぎ」とは?

法人を設立した場合には、個人事業の資産や負債を設立した会社に移行する手続きが必要となります。

 

これを「資産等の引き継ぎ」といいます。

一般的な資産の引継ぎ方法には、「売買」、「現物出資」※、「賃貸借」の3つがあり、それぞれの資産や状況に応じた方法で行います。

※ 現物出資とは、金銭ではなく、車両や什器、土地建物などといった動産や不動産によって出資する方法をいいます。

なお、売買の方法で資産の引き継ぎをするときには、資産の種類に応じて次のように処理するものとされます。

在庫(棚卸資産)について

個人事業主が保有していた在庫は、法人に販売価格で譲渡します。

 

この場合、売上げを低くするため著しく低い金額で売却した場合には「通常の販売価格×70%」の代金で売却したものとみなされます。

一方、法人側においては、時価(通常の販売価格と同等の価格)で仕入れたものとして処理しますが、この場合も、時価よりも著しく低い金額で受け入れた場合は、その差額に対して受贈益が課税されます。

また、逆に高い金額で受け入れた場合には、その差額は個人への寄付金となります。

固定資産について

個人事業主が保有していた固定資産は、法人に時価で譲渡します。

 

この場合、売上げを低くするため著しく低い金額で売却した場合には、在庫の場合よりも厳しい「通常の販売価格×70%」の代金で売却したものとみなされます。

一方、/strong>法人側については、中古資産の時価での購入となります。

 

債権について

売掛金等の債権については、そのままの金額で法人へ引き継ぎます。

 

ただし、債権の譲渡をする場合は、債務者の同意や通知などの手続きをしないと、債権譲渡を債務者に主張できなくなるため注意が必要です。

負債について

個人事業主に負債がある場合には、通常は債務引き受け契約を締結してこれを法人に引き継ぎます。

 

しかし、債務引受けをする場合には、銀行などの他に信用保証協会などの承諾や調整が必要となることに注意が必要です。

個人事業の廃業手続きも必要

完全に個人事業を廃止して法人成りをした場合には、個人事業の廃業の手続きも必要となります。

廃業手続きは、以下の届出等をすることにより行います。

<税務署に提出するもの>

  • 個人事業の開業・廃業等届出書(廃業日から1ヶ月以内)
  • 所得税の青色申告の取りやめ届出書(事業廃止の年の翌年の3/15まで)
  • 給与支払い事務所等の廃止届出書(給与の支払いをしていた場合)
  • 事業廃止届出書(消費税を支払っていた場合)

なお、年を超えて個人事業を廃業した際には、廃業日〜個人事業の決算日である12/31までの所得について、翌年の3月に確定申告を行う必要があります。

 

そのため、廃業日はなるべく年末に近い時期に設定するのがおすすめです。

なお、法人成りする場合、個人事業のうちの一部の事業だけを切り離して法人にするということも可能です。

しかし、その場合にはデメリットも多いため、特別な理由がない限り法人に一本化することをおすすめします。

法人成りで必要となる行政への届出

法人成りの手続きをした場合には、会社の設立後に以下のような手続きも必要となります。

<税務署他関連>

法人設立届出書

「法人設立届出書」は、日本国内で法人等を設立したときに届け出る書類です。

主な記載内容は、代表者氏名・住所、事業目的、会社の形態、事業開始年月日などとなります。

提出の際には「定款等の写し」を添付する必要があります。

なお、この届出書の提出期限は、会社設立から2か月以内となっています。

「青色申告の承認申請書」

「青色申告の承認申請書」とは、法人が確定申告を青色申告でするために必要となる申請書です。

必須ではありませんが、青色申告をすることにより、「青色申告特別控除」、「純損失の繰越しと繰戻し」、「青色事業専従者給与」などの特典を受けられるようになります。

なお、この書類の提出期限は、青色申告書による申告をしようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後、新たに事業を開始したり不動産の貸付けをした場合には、その事業開始等の日から2月以内)となります。

「給与支払事務所等の開設届出書」

「給与支払事務所等の開設届出書」とは、法人としてはじめて従業員(青色事業専従者を含む)を雇用して給料を支払う場合に必要となる届出です。

「開設年月日」「給与支払を開始する年月日」「届出の内容及び理由」などの記入項目があり、提出期限は従業員を雇用することになってから1カ月以内となっています。

「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」

「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」は、従業員の分の税金を給与から天引きして支払う(源泉徴収)際の特例を受けるために必要となります。

本来、源泉徴収した税金は、毎月、これを納めなければなりません。

しかし、給与の支給人員が常時10人未満の企業については、この申請をすることにより、1月~6月までの分は7月10日まで、7月~12月までの分は翌年の1月20日までにまとめて納めることができるようになります。

この届出については、提出期限は特に定められていません。

「法人設立届出書」(→都道府県・市町村)

法人を設立した場合には、都道府県や市区町村に支払う地方税も発生するため、その資料として都道府県等に対しても「法人設立届書」を提出する必要があります。

提出期限は、都道府県等により異なりますが、目安としては法人設立後15日〜1ヶ月となります。

<社会保険関連>

法人設立時には、その他の書類として以下の届出をする必要があります。

  • 健康保険・厚生年金保険新規適用届」(→年金事務所) 5日以内
  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」(→年金事務所) 入社日後5日以内
  • 健康保険被扶養者(異動)届」(→年金事務所) 事実発生の日から5日以内
  • 雇用保険適用事務所設置届」(ハローワーク) 雇用または設立の日の翌日から10日以内に提出します。
  • 雇用保険被保険者資格取得届」(→ハローワーク) 従業員を雇用した月の翌月10日まで
  • 労働保険関係成立届」(→労働基準監督署・ハローワーク) 労働者を雇用した日の翌日から起算して10日以内に

まとめ

以上のように現在の日本では4つの会社形態があり、それぞれ組織の構成や責任などに違いがあります。

会社を設立する場合にはこの点を理解した上で選択する必要がありますが、これから合名会社と合資会社を作るメリットはほぼないことから、現実的には株式会社と合同会社のいずれかの選択となります。

なお、株式会社は知名度が高いという特徴がある一方、合同会社は設立費用が安い、柔軟な運用ができるといった特徴があるため、これらを考慮した上で検討されることをおすすめします。

また、法人の設立後には、資産の引き継ぎや各種の届出が必要となりますが、期限が定められているものも少なくないため、提出忘れがないよう注意してください。