創業計画書の書き方と審査に通りやすくする方法
これから創業しようとお考えの方にとって、最も気になるのが「資金の調達」だと思います。
その中でも、日本政策金融公庫の創業融資は、事業実績や経験のない方でも利用できる最もおすすめの資金調達方法です。
しかし、融資には審査があり、その判断に大きな影響を及ぼすのが創業計画書となります。
この記事では、創業融資の基本となる新創業融資制度の概要や、創業計画書に記入する項目ごとのポイントについて解説いたします。
創業計画書が必要になる融資とは?
創業融資の申込みでは、ほとんどの場合で創業計画書が必要となりますが、その中でも最も代表的なのが日本政策金融公庫の「新創業融資制度」です。ここでは、まずは新創業融資制度がどのようなものかについてご説明します。
新創業融資制度の概要について
「新創業融資制度」は、開業前または開業後間もない創業者の方が利用できる融資制度です。利用にあたっては一定の自己資金が必要となりますが、法人が利用する場合には、代表者が連帯保証人とならなくともよいという特別な優遇措置があります。
<利用できる方>
新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方が対象。
ただし、以下のいずれかに該当する方については、「創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金」があることが必要となります。
◯ 新たに事業を始める方
◯ 事業開始後税務申告を1期終えていない方
<資金使途>
新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金
<融資限度額>
3,000万円(うち運転資金については1,500万円が限度)
<返済期間>
各融資制度に定める返済期間以内
<利 率(年)>
2.37%~3.05%(令和4年3月現在)
<担保・保証人>
原則不要。ただし、法人がこの制度を利用して借り入れをする場合には、代表者個人には責任が及ばないものとなっています。
新創業融資制度の特長
新創業融資制度には、次のような特長があります。
一定の自己資金がないと申し込みができない
新創業融資制度の申込みをするためには、創業にかかる経費の1/10以上の自己資金があることが必要となります。
これは、融資申し込みの必要条件であるため、この要件を満たせないまま申し込みをした場合には、融資を受けることはできません。
しかし、
・現在の企業に継続して6年以上お勤めの方や、現在の企業と同じ業種に通算して6年以上お勤めの方
・大学等で修得した技能等と密接に関連した職種に継続して2年以上お勤めの方で、その職種と密接に関連した業種の事業を始める方
など、一定の特別な要件を満たす方については、自己資金がなくてもこの融資の申し込みをすることが可能です。
参考:新創業融資制度の「自己資金の要件を満たすものとする要件」
制度を利用できるのは「事業開始後税務申告を2期以内」まで
新創業融資制度は、新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方が利用できる制度です。
そのため、この期間を過ぎている場合はこの融資制度は利用できず、通常の一般融資を利用することとなります。
なお、ここで注意しなければならないのが、期限は「2年ではなく、2期」だということです。
例えば個人事業主については、決算日が12月の末日となるため、開業した日が9月の場合には一期目は実質的に4ヶ月で終了してしまうことになります。したがって、この場合、トータルで利用できる期間は1年4ヶ月となります。
このようにこの融資制度を利用できる期間は、いつ開業したかにより異なることに注意が必要です。
法人については、代表者の保証なしで利用できる
新創業融資制度は、「無担保・無保証」の制度です。
しかし、この制度が他の無担保無保証制度と大きく異なるのは、「法人で申し込んだ場合には代表者が連帯保証人にならなくてもよい」ということにあります。
通常、無担保無保証といわれる融資では、法人が申し込んだ場合にはその代表者が必ず連帯保証人となります。しかしこの制度では、代表者が連帯保証人となる必要がないため、借入れをした企業が万が一倒産したような場合でも、代表者が責任を負うことはありません。
なお、もし、法人で代表者があえて連帯保証人となる場合には、ならない場合よりも利率が0.1%低減されます。
「新規開業資金」と「新創業融資制度」の違い
日本政策金融公庫には、新規開業資金と新創業融資制度という二つの融資制度がありますが、これらはそれぞれで役割がまったく異なります。
まず、新規開業資金は、創業者向けの一般的な融資制度です。
これに対して、新創業融資制度は、これ単独で利用できる制度ではありません。
これはどういうことかといえば、新創業融資制度は、本来、担保や保証が必要となる融資を無担保無保証で使えるようにするための特別の枠だからです。
たとえば、新規開業資金を利用する場合には、原則として担保か保証が必要となりますが、これらを準備できない場合には、新創業融資制度をセットにすることにより、無担保無保証での借入れをすることが可能となります。
このように新創業融資制度と新創業融資制度では、前者はそれ単独の融資制度であるのに対して、後者はこれを無担保無保証で利用するための補完的な特別枠という関係にあります。
創業融資を申し込む時の注意点
日本政策金融公庫の創業融資を申し込む場合には、以下の点について注意が必要です。
創業計画の前提として必要となる「自己資金」とは?
前述したように、新創業融資制度を利用する場合においては、原則として、創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要となります。
しかし、すべての預貯金や財産が自己資金として認められるわけではないため、これを間違ってしまうと融資の申し込みができないということになってしまいます。
自己資金として認められるものとしては、以下のようなものがあります。
- これまでにコツコツ貯めたことが分かる預貯金の残高
- 退職金
- 相続などにより得た資金
- 親などから贈与された資金
- 株式や有価証券を売却して得た資金
しかし、次のようなものは自己資金として認められません。
- 一時的に借りた資金 ※親などから借りた資金であっても NG
- 出所の説明ができない資金
- タンス預金
なお、自己資金は創業計画で実際に使う予定の資金でなければなりません。
そのため、仮に通帳に300万円の残高がある場合でも、それを事業に使わないのならばこれは自己資金としては認められません。
そのため、仮に500万円の融資の申し込みをするのであれば、この自己資金の300万円を合計した800万円で創業計画を作る必要があります。
自己資金の9倍の融資が受けられるわけではないことに注意!
日本政策金融公庫の規定では、新創業融資制度の利用には創業にかかる経費の1/10以上の自己資金があればよいこととなっています。
しかし、これは1/10の自己資金があれば残りの9/10について融資が受けられるということではありません。
これは300万円の自己資金があるからといって、その9倍の2,700万円の融資が受けられるわけではないということを意味します。
では、実際に受けられる融資がいくらぐらいかといえば、一般的には自己資金の3倍から4倍程度が融資の出やすいボリュームだとされています。
つまり、300万円の自己資金がある場合には、900万円〜1,000万円を少し超える程度あたりがバランス的には限界といえます。
ただし、この場合には、900〜1,000万円の創業計画を作るのではなく、これに自己資金300万円をあわせた1,200〜1,300万円の創業計画を作る必要があることに注意が必要です。
融資の審査で求められる創業計画書の特長
日本政策金融公庫の創業融資を利用する場合に必要となる創業計画書には、次のような特長があります。
創業計画書と事業計画書は違うもの
日本政策金融公庫の新創業融資制度の申込みでは、必ず公庫所定の創業計画書を作成し、提出することが必要となります。
一方、企業が経営をする上で作成する事業計画書というものもあります。
しかし、これらはその性質が似ているようでも、その目的が異なるため、混同しないように注意する必要があります。
まず、両者は今後の事業の見込みを立てるために必要となる計画であるという点では同じですが、「事業計画書は過去の実績にもとづいて作成されるものであるのに対して、創業計画書はすべて見込みにもとづいて作られる」ところに大きな違いがあります。
そのため創業計画書においては、いかにその見込みが正しいかということを融資担当者に納得してもらう内容となっている必要があります。
例えば、
- 実際に自分で調査をした結果にもとづいた内容とする
- 政府などの公的なデータにもとづいた内容とする
- 根拠のある数字にもとづいて積み上げた内容とする
などが必要となります。
創業計画では実績を示せない分だけ、通常の事業計画書よりも、信ぴょう性を具体的に表すことが難しいといえます。
そのため、いかに公的な資料や公正なデータにもとづいて記載するかということが重要なカギとなります。
記載する内容は個々のフォーマットの項目に従う
日本政策金融公庫の創業融資では、使用する創業計画書のフォーマットが決まっています。
したがって、このフォーマットの項目に沿って記入するとともに、項目の見落としや漏れがないように注意する必要があります。
なお、フォーマットに記載されていない項目であっても、内容を補足するための資料としてこれを添付するなどは問題ありません。
創業計画書では、主に以下のような内容を記載することとなります。
- 起業や事業の目的 何のためにどのような事業をするのか?
- 保有する資源の確認 どのような資源(資金、ノウハウ、人材等)をもっているのか?
- 周囲の環境(業界の状況や競合店の存在、法規制や許認可など)
- 必要な資金の規模や調達の見込み(いくらぐらいの資金がかかるのか?不足分をどのように調達するのか?)
- 売上目標や今後のプラン(いくらくらいの売上げを上げ、そのためにかかる経費をどの程度に見込んでいるのか?事業開始の進め方は?)
安易な手抜き記載はしない
創業計画書は、日本政策金融公庫の中でも複数の人間にチェックされます。
そのため、内容の手抜きなどがある場合には、確実に見抜かれることとなります。
「よくわからなかったので、書かなかった」、「書ける項目がなかった」などのケースがよくありますが、十分な記入ができていない場合には、計画の評価を下げる原因となってしまいます。
仮に書ける内容がない場合でも、できるだけ空白で提出するのではなく、関連する事項を記入するようにしましょう。
また、記載例の内容をそのまま引用するなどもNGです。
記載例はあくまでも「例」の一つです。
記載例を参考にするときには、書きぶりなどを参考にするのは構いませんが、似たような内容とならないよう注意しましょう。
創業計画書の作成は人任せにしない
創業計画書は、極力、自分で作成するようにしましょう。
中には、専門家にほぼ丸投げに近い形で依頼される方もいますが、仮に体裁のよい計画を作ってもらうことはできても、自分の意思やプランを正確に盛り込んだ計画とはならないことがほとんどです。
また、このようなことをした場合には、計画の内容に整合性がとれなくなる可能性があるだけでなく、後日の金融機関都の面談で本人が困ることとなります。
したがって、創業計画のサポートを依頼する場合には、まずは自分で作成し、そのうえで内容を添削または修正してもらう程度にとどめた方が、最終的な融資の確率も上がりやすくなります。
計画の評価で、最も重要なのは「根拠」と「妥当性」
計画の評価において、最も重要となるのが「根拠」と「妥当性」です。
どんなに体裁よく作られた計画でも、その内容についての具体的な根拠や、収支の数字に妥当性がないものは、融資額の減額または融資の失敗の原因となります。
たとえば、初年度から数千万を超える売上げを上げるなどは妥当性がありませんし、それを達成できると思わせる数字や資料がないのでは根拠がありません。
したがって、計画の作成においては、具体的な数字や資料による根拠にもとづいて実現可能なプランを作ることが重要といえます。
創業計画書の入手方法
日本政策金融公庫では、新創業融資制度で必要となる創業計画書をホームページからダウンロードすることができます。業種別の記入例も豊富に用意してあるため、自分の業種にあった記載例を参考にしてください。
また、日本政策金融公庫では、創業計画書の他、中小企業経営力強化資金用、創業後目標達成型金利用、海外展開事業計画書、事業承継計画用、経営改善用などの計画のフォーマットを多数用意しており、利用する融資の種類に応じたものを使用することとなっています。
参考:創業計画書フォーマット・記載例(日本政策金融公庫HPより)
https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_kokumin.html
項目別!日本政策金融公庫の創業計画の書き方のポイント
日本政策金融公庫の創業計画書は、以下のような項目にもとづき構成されています。ここでは、各項目ごとのポイントや注意点について解説いたします。
創業の動機
この箇所ではなぜ、創業する気になったのかという、創業の動機について記載します。
以下の項目を説明に入れられればバランスがよくなるとともに、意気込みだけでなく今後の事業に対する準備ができていることをアピールすることができます。
- 記入した方がよいポイントとしては
- 創業のきっかけとなった出来事や想い
- 創業についての現在の準備の状況
- 営業をするにあたっての取引先野の確保の状況
なお、 動機の箇所の記入をする際によくありがちなのが「熱意が空回りしている」パターンです。
これは実際には達成が難しいような内容や計画を立て、しかも具体的な裏付けもなく熱意だけでやり切るようなプランとなっているようなケースなどがその代表的なものとなります。
したがって創業計画に記載をする時には、熱意を強く語るのではなく「なぜそれができるのか」という点からアプローチすることをおすすめします。
経営者のプロフィール
ここでは、融資の申込人のこれまでの経歴等を記載します。
具体的には、最終学歴やこれまでの職歴などを記載しますが、これ以外にも過去における事業への貢献や褒章などがある場合には、それらについてもあわせて記載します。
なお、職歴について「〇〇所属」や「◯◯に従事」のように簡単に書くのではなく、実際にそこで行った作業内容などについても詳細に書くようにしましょう。
こうすることで、今後の事業についてどんな経験があり、どんなことができるのかをアピールすることができます。
また、取得している資格や特許などがある場合には、あわせて取得資格や知的財産権等の箇所に記入します。
取扱商品・サービス・セールスポイント
取扱商品については、その品目や単価、数量を記載しますが、サービスについてはその内容だけでなく、ランチと夜営業をするような場合にはそれぞれの内容を具体的に記載します。
ランチと夜の二部営業をするときには、それぞれで客層や単価も異なるため、それぞれに応じたプランとし、その内容を説明する必要があります。
セールスポイントは、実際の営業で集客が可能となるプランは何かを考えてうちだしましょう。
どこでも行っているありきたりなプランや、魅力のないものでは、評価が低くなるだけでなく、営業を開始後に経営が行き詰ってしまう可能性が高くなるため、できるだけ強みのあるプランを考えることをおすすめします。
また、競合先や周囲の環境については、できるだけ店舗周囲の競合先の落とし込みや、公的なデータなどを使った説明をすると、より説得力が増します。
取引先・取引関係
取引先は、「一般顧客を対象とするケース」と「具体的な相手がいるケース」の大きく2つに分けられます。
一般顧客を対象とする場合には、売掛けは発生しないため、現金だけの回収となります。
しかし、具体的な相手がいるケースでは、取引の相手ごとに異なった条件となるため、取引先ごとのシェアや掛割合、回収・支払い条件を記入するようにします。
なお、個々で取引条件が異なる場合には、資金繰りにも影響が出るため、この点にも配慮して計画を作る必要があります。
従業員・借入れの状況
常勤役員の数と従業員数を記入しますが、従業員は3ヶ月以上継続勤務または雇用予定の方が対象となります。
また、現時点ですでに借入れがある場合には、その内容・金額・年間返済額などを記入します。
必要資金と調達方法
この箇所では、事業を行うために必要となる資金とその調達の方法について記載します。
「必要資金」の欄では、資金の具体的な使い道と金額を、運転資金と設備資金に分けて記載します。また、「調達方法」の欄では、事業に必要な資金をどこから、どのような手段で調達するのかを記載します。
この場合の「必要資金」の額と「調達方法」の金額は、必ず一致させます。
また、設備資金については、その金額の裏付けとなる見積書の金額と違いがでないように記入してください。
事業の見通し・収支計画
事業の見通しの箇所では、創業当初および創業1年後の収支の見込みを「売上げ〜経費〜利益」およびその見込みの根拠とともに記載します。しかし、記載例で表示されている形式のまま作成するのは、あまりおすすめできません。
なぜなら、これでは1年単位での収支の状況しかわからないからです。
そのため、日本政策金融公庫の評価を上げたいのであれば、1ヶ月ごとの収支計画を作成しましょう。
これであれば、月単位の収支状況やおよそのキャッシュの動きを把握できます
また、計画書に記入する項目についても、実情に合わせてもっと細かくしても構いませんし、収支計画の部分を別紙に記載してもokです。
自由記述欄
創業計画書「自由記述」欄は、追加でアピールしたいことや欲しいアドバイスなどを記入する箇所とされていますが、意外と何も記入しないという方が少なくありません。
しかし、集客の根拠となる資料をつけたり、記入することで、さらなる評価アップを狙うことができます。
まとめ
日本政策金融公庫の新創業融資制度は、創業系の融資制度を利用する際に最大3,000万円まで無担保無保証となる、創業者の方がぜひ利用すべき制度です。
利用条件についても、比較的簡単なものが多いですが、自己資金の要件についてはこれを満たしていないと融資が受けられなくなるため要注意です。
また、実際に記入する項目については公庫のホームぺージで記入例が豊富に用意されているためこちらが参考となりますが、記入する内容については、根拠と妥当性にもとづいて作成することが審査の評価を上げるポイントとなります。
「いい税理士さんに出会えてよかった」と言われるために、従業員一同情熱と信念を持って業務に取り組んでおります。税金についてだけではなく「補助金」「融資」「経営」などについて不安なこと、わからないことがありましたら、お気軽にご相談ください。